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September 14, 2009

【狙われる日本の水】(上)見えない敵から守れ 

 「よく分からないんですが…」。東京・霞が関の林野庁。幹部は首をひねりながら話し始めた。「中国人らしき人物が、山奥の山林の値段を聞きに来たというんですよ」

 林野庁には昨年から、こうした類の話が寄せられている。三重県など各地の山奥で、中国系企業が森林の高値買収に動いているというのだ。

 山林は都市開発ができず、国産木材の価格も長期的に低迷しているため、買収のメリットは薄い。考えられるのは「水」だという。森林の地下には地下水脈がある。それが海外資本のターゲットになっている可能性が指摘されている。

 「水が豊かな日本にいたら気づきにくいが、現代は世界各国が水を求めて争う時代。日本の水をくみ上げ、大型船で海外へ大量に輸出するということも、ビジネスになる時代だ」

 ある商社幹部はこう話す。実際に日本のミネラルウオーターを中国の富裕層向けに販売するビジネスは、一部の日本企業で始まっている。そこに中国系企業が参入しても、まったく不思議ではない。

 林野庁は調査に乗り出したが、結局その実態は分からなかった。「中国系企業は土地をブローカーに買収させるから、企業本体は姿を見せない。見えない相手が、いま『日本の水』を狙っている」。商社幹部はこう警鐘を鳴らす。

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 標高2967メートルの甲斐駒ケ岳がそびえ、山々が連なる南アルプス。山すその鬱蒼(うっそう)とした森の中に、サントリーのナチュラルミネラルウオーター「天然水 南アルプス」を生産する白州水工場はある。毎分350~700本のペースで、ペットボトルに水が詰められていく。ボトルはベルトコンベヤー上を流れていくうちに、次々とラベルが張られ、箱詰めにされていく。


 「この“おいしい”水は、山と森が育てているのです」。高林正道工場長は、そう話す。

 「天然水」は、地上にわき出る水や川から取るのではなく、地中約100メートルからくみ上げられる。森の柔らかい土に、山に降った雪や雨がしみ込み、土の下の花崗岩(かこうがん)に浸透していく。岩に含まれるマグネシウムやカリウムといったミネラルの成分が溶け込んだ水が地下水脈を作るのだ。まさに山と森林が水を生んでいる。

 地下水脈を生む山林は「水源林」「水源涵養(かんよう)林」と呼ばれる。ペットボトルで販売されている「名水」にはさまざまあるが、「ナチュラルミネラルウオーター」は、こうした地下水脈を純粋にくみ取りった水でなければならない。

 地上の空気に触れた水は、水中の成分が腐りやすくなるため塩素消毒が必要となる。そうした水は水道水と同じ「ボトルドウオーター」に分類される。人工的にミネラルを加えれば、「ナチュラル-」ではなく、それはただの「ミネラルウオーター」だ。

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 実はこの水源林と地下水脈は常に荒廃の危機にさらされている。

 「法律上、水源林の所有者は際限なく水をくみあげられるし、水源林を保護する義務もない」

 サントリーの工場がある山梨県北杜(ほくと)市の担当者は、こう問題点を指摘する。同市ではサントリーを含め、5業者がこうした水を使って飲料水や食品を生産しているが、もし悪質な業者が、過度に水をくみ上げれば地下の空洞化と地盤沈下につながる。水源林が荒廃すれば、水は枯渇する。

 「水源林と水を守っているのは、自治体と業者の自主的な努力。しかし、協力しない業者が出てきたら、どうするべきか」。北杜市の担当者は不安を口にした。市では、独自条例で井戸採掘を許可制にしているほか、サントリーなど業者側もくみ上げ量を自主規制し、森林保護に取り組むなどしているが、協力しない業者が現れた場合、対策はいまのところないのが現状だ。「水源林を買い取ろうとする業者には注意が必要。日本の環境やルールに関心が薄い外国企業が現れることにも目を光らせないといけない。ただ、自主努力には限界もある。国の法整備が必要な時期に来ているかもしれない」

 北杜市の担当者はこう話した。(菅原慎太郎)

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