コラム:米追加緩和期待でドル安、いつか来た道の教訓=佐々木融氏
佐々木融 JPモルガン・チェース銀行 債券為替調査部長
[東京 23日 ロイター] 8月22日に公表された米連邦公開市場委員会(FOMC)議事要旨で、多くのFOMC委員が「今後入手できる情報が大幅かつ持続可能な景気回復ペースの加速を示さない限り、追加の金融緩和はかなり早期に正当化される公算が高い」と判断していることが明らかになった。
9月12―13日に予定される次回のFOMCで何らかの追加緩和が行われる可能性は高いであろう。
追加緩和の内容として有力なのは、現在「2014年終盤まで」極めて低い政策金利を維持するとしている政策ガイダンスの延長である。次回FOMCではこの期間が「2015年半ばまで」に変更される可能性が高いと予想する。
量的緩和(QE)についても、「多くのFOMC委員が、景気回復への追加支援に資することを期待」と記述されている。9月のFOMCでQE3が行われる可能性は比較的高いと予想するが、政策ガイダンスの延長と同時に行うかどうかは微妙なところだ。仮にQE3を開始するとしても、小額ずつ実行するという選択肢もありそうだ(たとえば、今後2ヶ月間で1500億ドルの資産買い入れを決定し、それ以降は12月のFOMCで再度検討する)。
実は、2010年11月3日から開始されたQE2の際も、その数ヶ月前の7月14日に発表されたFOMC議事要旨で追加緩和期待が高まり、8月27日のジャクソンホールでのバーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長講演でそれが確認されたという経緯がある。したがって、当時のFOMC議事要旨から実際にQE2が開始されるまでの市場の動きを振り返ることは、これから次回FOMCが行われる9月12―13日までの今後約3週間の市場の動きを占う上で参考になる可能性がある。
<クロス円は比較的大きく上昇か>
FOMC議事要旨公表からQE2に至る3か月半に及ぶ前回の道のりの中で顕著だった動きは、米長期金利低下と米ドル安である。
米10年国債利回りは約70ベーシスポイント(bp)低下し、米ドルは実効レートベースで6%、米ドル円相場は9%下落した。米ドルはこの期間中、主要通貨の中では最も弱い通貨となっており、金先物価格は12%上昇している。足下で、米10年国債利回りとドル円相場の相関は比較的強いことに鑑みると、今後3週間は米金利の低下に沿う形で、緩やかに米ドル円相場が下落する展開となる可能性が高そうである。
もう少し中長期的視野で、QEが実施されている期間中のマーケットの動きを見てみよう。2009年3月―2010年3月に実施されたQE1も、2010年11月から2011年6月に実施されたQE2も、実際にQEが実施されている最中は、世界の主要株価指数は堅調に推移している(ただし、日経平均株価はQE2の途中で大震災を受けて暴落した)。QE2の際には、7月14日のFOMC議事要旨の後は目立った反応は無かったものの、8月27日のジャクソンホールでのバーナンキFRB議長講演以降、主要国株価は上昇基調に入っており、世界の市場参加者はQE2開始を待たずにリスクテイク嗜好を強めていった。
また、為替市場では「米ドル安・円安」となり、クロス円が比較的大きく上昇している。これは市場参加者のリスクテイク嗜好が強まった時の典型的な動きである。QE1の期間中の主要通貨の騰落率を見ると、米ドルが最も弱く、次いで、ユーロ、円が弱くなっており、米ドルは円に対して5%下落している。一方強かったのは豪ドル、ニュージーランド(NZ)ドル、カナダ(加)ドルで、それぞれ円に対して31%、27%、19%上昇している。QE2の期間中は米ドル、英ポンド、円がほぼ同程度に弱く、QE1の時と同様に豪ドル、NZドル、加ドルが強く、それぞれ円に対して5―7%程度上昇している。
つまり、過去2回のQEの経験を総括して、今回に当てはめると以下の様になる。
今後9月13日までの3週間は米長期金利の低下に沿う形で米ドル円相場が緩やかに下落する。また、米ドルは全般的に弱くなるため、ユーロや豪ドル、加ドルに対して米ドルが下落し、一方で金価格は上昇する。そして、8月31日に予定されているバーナンキFRB議長のジャクソンホールでの講演をきっかけに、世界の主要株価は上昇を始め、QE3が終わるまで上昇基調は続く。その間、米ドル円は横ばい、ないしは緩やかな下落が続くが、クロス円は比較的大きく上昇する。
過去の経験則が今回も当てはまるとは限らないが、筆者は比較的これに沿った動きになる可能性が高いと予想している。