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December 26, 2012

コラム:安倍政権の幸運を呼ぶ世界経済の脱「どん詰まり」=田中泰輔氏

田中泰輔 ドイツ証券 チーフ為替ストラテジスト(2012年12月26日)

2013年は世界に薄明かりが広がると日本の明るさが際立つ、そんな期待の1年である。少なくともリーマンショックから4年が経過し、初めて地道に前向きな回復見通しを抱ける段階に来たと筆者は考えている。

この間、経済も市場も閉塞感を強め、特に11―12年は「どん詰まり」状態を極めた。投資マネーは行き場を見出せず、市場に残された僅かなスプレッド、些細なテーマに殺到した。リスク投資機運が減退するほど、債権国通貨の円は上昇しがちであり、円高は日本株をアンダーパフォームさせた。

しかし、米国と新興国に景気回復の兆候がじわり出始めた。そうなると、円高と日本株安の巻き戻しで、円安とそれに伴う日本株のアウトパフォームが生じる。世界情勢の割を食った円高下の日本の暗さが、パッと明るく輝いて見える場面だ。その背後では、日本株をことさらに過小評価してアンダーウェイト保有だった外国人が、必死になって日本株の見直し買いに殺到している。

<安倍政権の幸運な巡り合わせ>

そうした中、「安倍相場」が花開いた。12年9月に自民党総裁に選出された安倍晋三氏が、「これまでの次元を超えた金融緩和」を公約に掲げ、衆院選で大勝し、政権に復帰した。デフレを克服すべく、日銀法を改正してでも、白川方明日銀総裁をハト派総裁に交代させてでも、2%インフレ目標を採用させ、金融緩和を拡充し、建設国債を(市中から)買い入れ続けるというスタンスである。

日本市場では、政権トップとして金融政策の独立性に対して一線を越えた発言に「おいおい」と思う人が多いだろう。しかし、行き場を見失っていた海外マネーがまず円売り、日本株買いに殺到した。円安、株高になると、日本でもホッとする人が多い。結果として、日銀の信認を問題視するよりも、政権の行き過ぎを危惧するよりも、日本が閉塞状況を打破できるかもしれないという期待感が優ってきたようだ。

安倍氏率いる自民党は、衆院選前の世論調査によると25%前後の支持率で、選挙では6割以上の議席を得た。参院では自民・公明を併せても過半数に至らない。安倍新首相が政権基盤を固めるには、来年7月の参院選で勝利して、16年までの無選挙期間を通じた長期政権の樹立を図りたい。国民が政権に求める関心事項の筆頭は「景気と雇用」。安倍政権は今後半年、国論が割れる神経質な問題には踏み込まず、マクロ経済対策の取り組みを集中的に訴えるだろう。海外マネーに対する「安倍相場」の燃料補給は当面続くと見る。

「安倍相場」にとってのリスクは米経済の回復力が芳しくない事態であろう。万一、3―6ヶ月後に米経済成長見通しが1%だったら、ドル円相場は80円割れ、株価も反落を免れない。安倍氏の評価は、威勢の良い公約も結局効かない、補正予算で財政見通しを悪化させた、日銀の独立性を台無しにしたなど、暗転することは必定である。過去4年の政権と同様に景況・市況悪化の下では支持率も低下する。

ただし来年のメインシナリオでは、世界に薄明かりが広がり、円安地合いがサポートされ、安倍政権は幸運な追い風を受けられる。その場合、安倍政権の積極的な姿勢が日本の流れを変えたとの心証が強化されよう。

<円ベースの為替投資に妙味>

世界に目を向ければ、米国では住宅指標が改善し、消費と雇用は底固さを保っている。今そこにあるリスクの「財政の崖」をみすみす見過ごして転落することは想定しがたい。崖を越えると、市場全般の米経済見通しは上方修正される可能性が高く、企業センチメントが上向き、雇用、賃金、消費の底固さも増すだろう。

米国の回復は緩慢ながらも、同様に緩慢と見込まれる新興国景気の回復サイクルを補強する。ユーロ圏では、債務問題の圧迫が向こう何年も続くだろう。しかし、システミックリスクによる経済・市場の底割れ回避という喫緊の課題は、欧州中央銀行(ECB)が南欧国債の無制限買入れを表明したことでおよそクリアされつつある。

13―14年は、米国と新興国・資源国の経済が歩調を合わせて改善に向かう可能性が高い。ドルは中長期的に信認回復の軌道に乗り、円は対ドルで安くなると想定される。13年後半にドル円は85―90円に軸足を移し、その後、米連邦準備理事会(FRB)が超金融緩和からの出口戦略をとる時点で80円台前半に反落しても、15年に100円付近まで進む道筋をざっくりイメージしている。

新興国の高金利通貨は、景気回復と米金融緩和の継続が相まって進む期間に、ドルキャリーで上伸するものが増えるだろう。当然、対ドルで安くなる円からリスク通貨への投資にも妙味が広がる。特に11―12年に景気・通貨の循環的調整が十分になされ、回復の基礎ができた国の通貨ほど反発余地が大きい。

この観点で見ると、この時期に自国金利が低下しても、資源価格が低下しても、為替市場での調整がほとんどなかった豪ドルは、対ドルでの上値余地が限られる可能性がある。ただし、その豪ドルも世界経済の回復、資源価格の堅調によるサポート感を得られるため、円から見れば堅調だろう。

ユーロは、趨勢的には米金利堅調と欧州金利抑制の狭間の金利相場として、昨今の1.3ドル水準から13年末1.2ドル、14年には1.1ドル台へ軸足を下げると想定される一方、数カ月ごとに政策対応を危惧したユーロ売りと政策発動後の巻き戻しという上下動を繰り返すと見られる。対ドルでの趨勢的な円安とユーロ安を対比すると、ユーロ円の中心軸は105円前後でやや円が劣勢かという見立てである。

ただし、米金利上昇過程で度々強まるはずの円安動意と、ユーロの数カ月毎の上下動は必ずしも一致しない。このためユーロ円のクロスは95円割れから115円の幅広のレンジで振れることが想定される。95円や110円越えは長続きしないものと心得て対応することを推奨する。

世界経済と市場が11―12年にどん詰まった先で、13年に下振れることは、かなり深刻な事態と考えられる。リーマンショック以降の金融危機に対して、歴史的に積み上げてきた人類の英知は結局勝てなかった、ということになりかねない。しかし幸いなことに、どん詰まりの先には明るい兆候が増えつつある。その延長線では、円安と株高に伴う日本の再評価が進む可能性が期待される。薄明かりがさらに広がる13年を期待したい。

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