円安108円台、「貿易赤字」が裏付ける長期円安局面が到来か 2014/09/18 14:11 日経速報ニュース 1430文字
18日の東京外国為替市場で、円の対ドル相場は約6年ぶりの円安・ドル高水準となる1ドル=108円台後半まで一時下げ足を速めた。長い目で見た今回の円安局面では、スタート時の2012年秋から30円強も円安が進んだことになる。これまで経験した過去の円安局面と比較すると、今回の背景の特徴として「日本の貿易赤字」を指摘する声が多い。折しも財務省が18日朝に発表した8月の貿易統計速報(通関ベース)で、貿易収支は9485億円の赤字と、26カ月連続の貿易赤字を記録。日本経済の構造変化が円の長期的な下げを促そうとしている。
04年12月から07年6月まで続いた前回の円安局面では、日本の低金利が長引いていたことを手掛かりに、円を売って高金利通貨を買う「円キャリートレード」に沸いた。その前の1999年11月から2002年2月まで続いた円安局面では、99年の大規模な市場介入に始まり、IT(情報技術)バブル崩壊を受けた日銀の量的金融緩和で円の下落が加速した。今回も日本の大がかりな金融緩和が円売り・ドル買いを後押ししているという面で共通しているようには見える。
だが、今回の円安局面では日本の貿易収支が赤字に陥っているというのが、過去の円安局面との決定的な違いだ。振り返れば、1973年に各国が変動相場制を導入して以来、90年代後半までに実効レートで見て円が約3倍にも上昇したのは、日本が貿易黒字国だったからだ。貿易の状況が過去とは反転した現在、「投機筋が円売りの持ち高を巻き戻すような場面でも、これを国内輸入企業の円売りが吸収する構図が定着しつつある」(外為どっとコム総研の神田卓也調査部長)と見立てることができる。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券の植野大作チーフ為替ストラテジストは「これまで主要な5カ国(G5)や7カ国(G7)といった少数の国で通貨政策を協調してきたが、現在は20カ国・地域(G20)が協議しており、ここまで国際社会が複雑になったのは初めて」と指摘する。主力産業が輸出とあって自国通貨安への批判を避けたい新興国の多くが国際社会で発言力を付けた結果、日本への通貨安批判も国際世論として広がりにくくなっている面があるようだ。類例のない中での円安局面では、「これまでの経験則は通用しなくなっている可能性が高い」(植野氏)ようだ。
<これまでの長期的な円安局面の一覧>
・2012年9月~現在 77円44銭~108円半ば(約31円)
【燃料輸入増、輸出伸び悩みによる貿易赤字など】
・2004年12月~2007年6月 101円83銭~124円14銭(約22円)
【米住宅バブルで好況、円キャリートレード活発化など】
・1999年11月~2002年2月 101円35銭~135円04銭(約34円)
【米ITバブルで好況、日銀の量的金融緩和など】
・1995年4月~1998年8月 79円75銭~147円64銭(約68円)
【不良債権問題などで国内景気悪化、アジア通貨危機】
・1988年11月~1990年4月 120円67銭~160円35銭(約40円)
【国内政局不安、東欧民主化による欧州通貨高】
・1984年3月~1985年2月 220円00円~263円65銭(約43円)
【景気拡大を受けた米国の金利上昇など】
(注)QUICKが収録した日銀公表値などを元に作成。( )内は値幅。【 】内は主な背景。