格差社会に出口はあるのか
メディアがせっせと発信する格差報道というものは、「こんなにかわいそうストーリー」が中心で、ほとんどの場合データよりも情緒重視です。
一方為政者は「こんな金儲け野郎はこらしめますストーリー」を上演して彼らのガス抜きに努めます。
格差社会の「犠牲者」たちは、「官から民」への流れをせき止めることで「平等」が復活すると考えているようですが、日本の成長が限界的である環境下で民間活力に制限を加えることは、新たな格差強化につながる可能性が大です。
再び官のパワーアップが図られれば、ネットワークのある企業だけが、かつてのように官と協力体制を築き上げ、「勝ち組」企業を目指すでしょう。
そうした企業に都合が良いことに、「僕たちを安く使い捨てて下さい」と、自ら資本の奴隷を宣言している若年層がたくさん存在します。
秋葉原の店頭でメイドインジャパンを高らかに謳うシャープ亀山工場でも、正社員は3割に過ぎず、請負会社経由で働いている非正社員は、1日12時間拘束でも月の手取りは23万円です。
片や不動産流動化に携わる弁護士、税理士のパートナークラスは、「時給」5万円以上が相場。
こうした格差は、その労働が、「代替可能か不可能か」という性質の差によるわけですが、同時に言える事は、このような専門職の高給は規制緩和から生まれているのではなく、金融庁が指導する厳格なコンプライアンス体制を担保するための必要経費であり、間接的には個人投資家という貧乏人が負担する仕組みとなっているということです。
投資信託の高率な信託報酬がなかなか下がらないのも同じ理由だと運用会社は説明します。
「安全」を市場機能ではなく規制に頼ろうとすると、様々な入り口が狭くなり、「通行証」を持った大企業だけが価値ある情報にアクセスし、さらにビジネスを広げることを助けます。
コスト対応力のある大企業と官庁はコンプライアンスという鎧でガチガチに防御され、個人情報保護という建前で身内の不祥事は公開されません。
一方それだけの企業防衛コストが払えない新興企業はひとたび失敗があれば、一網打尽となり、既存体制強化の肥やしになりかねません。
社会保険庁がこれだけ事実上の「横領」を行ってもそれを罰する法が無く、責任追及がされない一方で、小泉改革の行き過ぎをスローガンに焼け太りを目指そうとする勢力は存在します。
納税者の監視の仕組みが不十分な状況で、「お任せ」が一番という信頼関係を、マーケットという淘汰の仕組みが機能しない官民関係に当てはめてしまうのは大きなリスクなのですが、そのリスクを意識出来ない人が国民の多数だとすれば、その行き着く先は、通貨も株も売られていく世界である可能性が濃厚です。
今後の日本が「投資」で生きて行かなければならないことは、もはや自明ですが、この国の中に高利回りも高成長も存在しないのであれば、リスクマネーは海外へ出稼ぎに行くしかありません。
もちろん、全ての資金が国籍を越えて飛び回ることが出来るわけではないので、為替リスクを負えない資金は国内での運用をすべく、優良資産の取り合いを繰り広げることになるでしょう。
その結果、良い立地、良い人材、良い商品、良いホテル・レストランなどは時に投資マネーの対象にもなり、ますますその地位を確固たるものにして、そこに寄り付く人々を幸福にする一方、そうした「ブランド」にアクセスする手段を持ち合わせない人々はより投資性能にシビアな海外マネーの元で「3K」的な仕事で働くしかなく、今以上に焦燥感を募らせることになりそうです。
「勝ち組」が仕事を奪って「負け組み」が増えているのではなく、新興諸国が非知識的な労働を低賃金で請け負うことで、日本の「負け組み」が発生していると理解するのであれば、これは政治の問題ではなく、我々の生活レベルに追いつきたいと願う新興諸国に追いかけられる以上、ある程度避けられない現象と考えるしかありません。
かつて日本に追いかけられて、繊維や家電、自動車など次々に職場を奪われていったアメリカ人の苦悩が日本で再現される姿とも言えそうです。
10年後にグリーン車と高級ホテルが中国人に占領されるのを見るのが嫌なら、市場経済の中で遮二無二頑張るしかありません。
見ないように隠遁生活を送るという逃げ道もありますが、既に市場の門戸は開かれていて鎖国は出来ませんから、逃げても限界はあります。
今回の世界同時株安で示唆されたように、世界の動きは一つになりつつあるので、経済に関して言えば、もはや国内問題というものはない、と考えたほうが誤った判断をしないで済みそうです。
中国、インドを含む世界との競争という面を考慮せずに、国内での分け前論争を続けても、それは小さくなるパイの醜い奪い合いに過ぎないでしょうし、この瞬間にも新興諸国のテクノクラートたちはまた一歩日本との差を詰める努力をしているでしょうから、その結果日本人のやっている仕事がまた一つ「代替可能」に格下げとなるという現実の方が、ずっと早く進んでしまうのだろうと思います。
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Comments
世界的に、同質の価値のもの・サービスを
提供する者には、同程度の報酬が与えられる
というのがグローバリゼーションの本質
だと理解しています。
この観点からみれば、昨今のBRICSの廉価
サービスは、裏返せば、先進国の「不当な」対価
を意味すると考えられ、日本におけるニートや
低所得層の拡大は、BRICS発展とコインの
表裏の関係にもあると理解しています。
今の日本にはBRICSを超えるサービスを
提供し続けるほど高いモチベーションもなく、
そうすれば、もの・サービス価格の規格化の
加速に呼応するように、日本は落ち目になる
と予想しています。
この落ちるスピードを軽減するただひとつの策
といえば、規制緩和による生産性向上なので
しょうが、現在は、逆の兆しが見え隠れして、
不穏この上ないといった風情です。
いずれにしろ、規制緩和から強化へすすめば、
落ちるスピードが「加速」するだけだと思って
います。それを選ぶか否かは日本国民の質に
かかっています。私は、否定的ですが。。
私は中長期的視野にたって、中国を中心とした
BRICS投資を続けていこうと思っています。
Posted by: Sky | June 13, 2006 12:38 AM
skyさん、こんにちは。
同感です。
なおアプローチとしては、BRICS買いより、むしろ円売りを主体にしたいと考えています。
今後ともよろしくお願いいたします。
Posted by: akazukin | June 14, 2006 09:21 PM