シーガイアは再建出来るのか(1)
バブル処理に追われた90年代に、「too big too fail」という言葉が使われましたが、当初680億円の事業費でスタートした計画が、なぜ3000億円以上の負債を抱えるまでに膨張したのでしょうか。
宮崎県は人口約110万人。
平均所得は約300万円と東京都のおよそ半分で、全国平均を下回ります。
全国一の日照時間と降水量を背景に一次産業の比率が国内で最も高い農業県。
宮崎、都城に次ぐ県内第三の都市である延岡は旭化成の発祥の地であり企業城下町ですが、他に特筆すべき進出企業を知りません。
若い人には全くピンと来ないでしょうが、私の父親くらいの世代では宮崎県は「新婚旅行のメッカ(死語だ、こりゃ)」として有名(だったそうです)。
そもそもなぜそれほど宮崎は人気を博したのか。
明治26年宮崎市に生まれた岩切章太郎という人がいます。
新渡戸稲造に感化された彼は故郷の発展に尽くすべく、東大卒業後住友に3年間勤務し、その後地元でバス会社を設立します。(今の宮崎交通)
バスガイドによる観光案内という当時としては画期的なコンパニオン制度を導入し、日南海岸にフェニックスを植樹し、宮崎を有数の観光県と発展させた地元の偉人です。
しかし昭和47年に沖縄が本土復帰すると、南国情緒という宮崎の優位性は失われ、その後は安くなった海外旅行との競争にも晒され、観光業は著しく衰退します。
幸か不幸かバブル景気に沸く1987年、総合保養地域整備法(いわゆる「リゾート法」)が制定され、志摩スペイン村とともに第一号の指定を受けます。
志摩スペイン村には日本の私鉄で最長距離を誇る近鉄という大スポンサーがいましたが、シーガイアの開発主体となったフェニックスリゾート社に出資したのは、フェニックス国際観光(ダンロップトーナメントで有名なゴルフ場を運営)を母体に宮崎県、宮崎市、宮崎交通そして第一勧銀。
この後は絵に描いたようなお決まりの転落コースを辿ります。
計画の肥大化、事業費の高騰、実現性のない事業計画での融資、開業してみると大赤字、銀行融資ストップ、税金投入、会社更生法、そして外資への売却。
オーシャンドームの年間入場者250万人という計画を見たある県議が、「宮崎空港がもう一つ必要だな」と語ったという逸話(?)を聞くと、自分自身のバブルストーリーが思い起こされる思いがします。
負債総額は関連会社を含めて3261億円で、リップルウッドの購入額は162億円。
1999年にメインの第一勧銀が、みずほ銀行への統合を前に新規融資の停止を行った時が完全撤退のチャンスでしたが、当時の松形知事は、「国際コンベンションみやざき基金」という名目で運転資金を拠出し、延命を図って傷を広げたという経緯があります。
宮崎県は周辺道路整備だけで300億円以上を支出。
第三セクターの破綻としては、二位のむつ小川原開発の1852億円を抜いて文句なしのトップ。
シーガイアの破綻が時期的に最も遅く、最も規模的に大きいという事実が、決断の遅れを物語っています。
九州全般にいえることですが、宮崎は仏の国ではなく、神の国です。
神武天皇を祭った宮崎神宮がありますが、これといった古刹(こさつ)はなく、仏教文化による歴史遺産は見当たりません。
政治的には隣県鹿児島の勢力に押されがちで、明治九年(1876年)には一旦鹿児島県に併合された時期もありました。
九州には珍しく温泉に恵まれていないというハンディキャップもあり、大分が湯布院、熊本が黒川温泉と、女性に人気の高い現代的な温泉地作りで成功していることと比較するとインフラ面で恵まれていません。
高度経済成長時代に一定の資本投下によって「擬似ハワイ」としてブームになり、その夢をもう一度追って敗れたと言い切ってしまうとそれで終わりですが、逆の見方をすれば、この遺産を活かせなければこの県に将来はないと言えるくらいの資産とも言えるでしょう。
だってここが無ければ東京から九州に行った人が、宮崎に立ち寄る理由が無いじゃないですか。
to be continued
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Comments
似たような空港はあるので、宮崎空港がもう一つできているというのは十分ありえたかも知れません。w
こういう話を聞くたびに、
これは、システムの問題なのか、
他の国、例えば、資本主義が進んでいるアメリカでもあることなのか、と考えてしまいます。
Posted by: SQ | September 18, 2006 12:15 AM
佐賀空港なんていうのもありますからね。
アメリカでもあるんだと思いますが、日本は程度が酷いんだろうと思います。
本四架橋三本とかですね。
Posted by: akazukin | September 19, 2006 11:14 PM