悲観が動かす世界市場
どうしてそんなに長くバカンスを取るのか、と聞かれたフランス人が、「多分私たちは将来に悲観しているのね」と答えたアメリカのTV番組を見たことがあります。
労働は余暇の貯蓄と言われますが、将来世の中が悪くなると考えるのなら、少しでも早く休んだほうが合理的です。
将来は靴よりも、もっと大事なもの(?)を脱がないと飛行機に乗れなくなるとしたら、確かに今のうちに休んだほうが快適な休暇が過ごせそうです。
世界がより活気ある社会になると考えるのなら、株式投資は魅力的でしょうが、逆であるなら長期の債券ほど多く買われることになります。
世界で最も将来に楽観的であるのは、ハリウッド映画を見てブッシュに投票するアメリカ国民と思われますが、同じアメリカ人でも金融資本はそれほど単細胞ではありません。
常に高い利回りを求める彼等は、アメリカが安定成長するだけでは物足りず、より高成長する市場を必要とします。
そのためにはアメリカ一極集中で世界市場が成熟してしまうのではなく、世界が多極的に発展し、平均的なパフォーマンスを大きく上回る市場があることが生き残りの重要な要素です。
アメリカ金融資本に取っては、BRICSは自然に生まれたものというより、作り出さなければならないマーケットだったとも言えます。
多くの新興諸国は資源国であり、その利益をアメリカによって「搾取」されていますから、新興諸国を高利回りの市場に成長させるには、「資源価格の高騰」という武器を与えるのが手っ取り早い方法です。
従ってイラク戦争、イスラエルVSイスラムの構図、南米での左派反米政権など世界の緊張の高まりは、むしろ歓迎されるイベントです。
こうしたハイテンションは人間が移動するコストを高め、一面では新興諸国の発展に障害となりますが、移動コストが極めて低い資本移動は比較有利になり、金融資本に富をもたらすでしょう。
残念ながら日本は金融スキルやそのインフラで欧米に大きく遅れを取っており、特に個人ベースでは、悲観論を長期バカンスで忘れることも、金融市場でヘッジする事も難しい状況です。
貯蓄に励め、汗をかけ、といったスローガンを時代遅れと嫌う若年層は、これから先が長いだけに、悲観は鬱積し、事あるごとに攻撃的な行動に走ります。
手近な対象である両親や祖父母、恋人とも言えない様な周辺の異性、あるいは無抵抗の幼児が、その犠牲になるケースが後を絶ちません。
成長を望むグローバルマネーは、わずかな差をとらえて裁定を繰り返しますから非常に流動的ですし、日本のように成熟し安定した風土にとっては耐えにくい緊張とストレスを持ち込み、「父さんリストラ、子はニート」現象を巻き起こし、不安と悲観を助長します。
競争も格差も小泉改革がもたらしたという近視眼的認識ではなく、国境を越えて輸入されて来ている現象と考えなければ、その処方箋を誤るでしょう。
一方、アメリカ金融資本に取っては、悲観も楽観も、そして世界の景気の波も、あたかも農業のように、種まきと収穫のサイクルと捉えることが可能です。
金利が天井を打ち、アメリカの景気が下降トレンドになると、それはその他の世界に遅れて景気の調整が広まることを意味しますから、これまでの海外での成果を引き上げ、アメリカ国内で慎重な運用をします。
ドルと債券は買われ、金利は下がり、海外マーケットは一時的にスローになります。
しばらくすると金融緩和効果でアメリカ国内が回復してくるので、遅れて動き出す海外マーケットに資金が向かい始め、ドルは国外へ流出し、債券は売られて金利は上がり、海外のマーケットが活発になります。
この転換点を決めるのは、やはりFRBの金融政策であり、上記の動きが為替市場のメインテーマになる時、アメリカの政策金利が緩和に向かい始めるとドル高が始まるという過去の経験則が繰り返されるでしょう。
世界は多極化に向かい、アメリカ経済のシェアは徐々に低下していくことが予想されるとはいえ、この国の景気サイクルが世界経済の変化のトリガーであることは否定できません。
もしアメリカが衰えていくプレゼンスを軍事力でカヴァーして行く道を選択するなら、それはさらなる悲観がこの国から発信されていくことを意味すると思われます。
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