過剰流動性が生む期待利回りの低下
日本の長期金利(10年)は先週また少し下がって1.60%。
この半年で最低レベルです。
トレンドは、さらにもう一段の下落を示唆しているように見えます。
「低い長期金利が投資マネーの増大に拍車をかけている」との表現が時折り見られますが、むしろ投資マネーが債券価格を押し上げていると考えないと、根本的な理由の説明が出来ません。
膨張したマネーが債券価格のインフレを招き、イールドカーブの逆転現象が、グリーンスパンをしてそれを「謎」と呼ばせました。
9.11以降アメリカが低金利政策を取り、ブッシュ政権が双子の赤字を許容し、日本がゼロ金利、量的緩和政策を長期間続けたことが、短期的な投資マネーを膨張させ、先進国の高齢化による年金ファンド等の増加が、長期運用の需要を著しく増大させたと考えられます。
いわゆるヘッジファンドのようにハイリスクを好む投資マネーはWTIやBRICS株に向かい、安定運用を好む年金等のマネーは米国財務省証券、ソブリン債、REIT市場などに流入したと想像できます。
ジョーンズラングラサールが作成した「NYのオフィスの投資利回りとスワップ金利の差の推移」をみると、
2003年に4%台後半あったものの、2004年には3%を切り、05年には2%を切り、現在ではややマイナスになっています。
現在ロンドンはNYよりもさらに低く、パリが1%、東京が2%。
これは下げ過ぎていた日本の地価が明確に反転し、それが株価に波及して来た時期とも重なります。
日本のオフィスビル市場でも、わずか数年前には5%以上で取引されていたものが、4%で買う者が現れ、今や3%台は当たり前。
NYやロンドンのオフィスマーケットは、過去の常識では完全に過熱状態にあり、アメリカ、オーストラリアのREITマーケットではスプレッドがマイナスになるなど、真正バブルと紙一重の状態も見られます。
米国REIT市場は、過剰な規制を避け、さらなるレバレッジを求めて非上場にするためのM&Aが主流であり、ある意味最終局面的な様相と考えられなくもありません。
不動産(REIT)のスプレッドが、「リスクプレミアム-期待成長率」で表せるとするなら、現在は期待成長率がリスクを上回っているということになりますが、この状況が果たして永続的なのかどうかは、それぞれの歴史感によりジャッジメントされるべきかと思います。
日本の場合、利回りと調達金利との間にまだ2%程度のスプレッドがあるだけ「まとも」といえますが、これは90年代に大きなトラウマがある日本人が最も敏感に危機感を感じ、それゆえ国内市場は過熱の一歩手前で立ち止っているとも理解されます。
しかしながら、このピーキーなREIT指数の上昇カーブを見る限り、海外の投資家は依然日本の不動産を買いに来ています。
いまだ完全にデフレ脱却できていない日本に居るとあまり感じられませんが、世界では急速にCASHの価値が下がっており、それが為替市場におけるドル離れとなり、ドルと経済的な結び付きが強い「円」も同時に売られています。
基軸通貨ドルの値下がりはグローバルなインフレそのものであり、世界の投資家はそれをヘッジするために、少しでもキャッシュフローのある資産を、多少高くなっていても買い続けなければ仕方がないという心理状態になっているようです。
FRBが次の政策として利下げを選択するなら、この傾向はさらに刺激されることになります。
ドルをドル以外の通貨に、またCASHをモノに変えようとする世界の動きに日本人が逆行するなら、結果的に資産価値を減らしてしまうという可能性はかなり高いと思われます。
事実この4年間、大事に「円」を現金で抱え込んできた家計は見えない形で大きく痛み、購買力が弱まってしまいましたが、国際的に経営資源を分散してきた企業分野は素直に好景気の恩恵を受けています。
その差が、設備投資の好調と消費の伸び悩みという違いを生み、日銀が自らのシナリオに疑問を感じて困惑する中、世界の二極化に引っ張られた格差の拡大は待ったなしに我々に忍び寄ってきています。
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