国策としての円安
G7の共同声明では為替問題への具体的な言及は無く、今後も穏やかな円安が続くとの見方が優勢となりそうです。
尾身財務相は「G7では、日本経済が物価安定の下で順調な発展をしていることに理解を頂き、そういう状況の下で為替レートはファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)を反映すべきだとの考え方に理解を頂き、大変大きな成果があった」と述べたと報道されており、「日本政府主導の円安政策をヨーロッパに否定されることなく、事前のアメリカへの根回しが効いて無事乗り切った」ということでしょう。
個人的にも円安バイアスのPFを作っていますが、実のところ円安は家計には厳しい選択です。
外貨を直接稼ぐ手段がない家計は、それだけ企業部門と比較して不利。
低金利は企業に有利で、利息収入が少なくなる家計に不利。
円安は不動産価格を上昇させますが、一般家庭は売れるほど不動産を所有していません。
外国為替資金特別会計を持つ政府は円安で含み益が増えますが、家計は輸入品の価格上昇で購買力が減少します。
政府借金800兆円の担保は「徴税権」です。
国債の信用を維持するためには、税収で返済可能なことを説明しなければなりません。
国民が一人あたり615万円を直接国に納めることを承諾するならそれは一つの解決ですが、現在の消費税を倍の10%にしても元本だけで80年かかります。
国民が直接払えないとするなら、別の税金に振り返るしかありませんが、所得税と消費税が駄目なら法人税しかありません。
結局のところ、所得税と消費税で国民が直接払うか、法人税を増やす環境作り(低金利と円安)をして間接的に国民が痛みを味わうか、というどちらかの選択肢しかありません。
経済実態に比べて円は安過ぎる、という評価は、こうした巨額負債のプレッシャーを考慮せずに、単年度の貿易状況しか考えていないわけで、欧米が発言するのは当然ですが、日本人としては評論家過ぎるでしょう。
仮に円高になれば、企業収益は低迷、資産価格が下落して固定資産税、登録免許税、相続税が減少、消費低迷で消費税も減少。
これでは800兆円を負担する人(部門)がいなくなります。
もちろんいつまでも円安頼みではなく、いずれは円高でも税収が堅調な経済構造とすることが望まれますが、そのためには小規模事業者が多く効率が悪い第三次産業を再構築し、国民全体の住環境レベルを向上させることで継続的な内需拡大を図るなど、さらなる構造改革が必要であり、時間がかかります。
誰も日本のクラッシュは望んでいないのですから、ユーロドルが徐々に下落することでEUの企業をなだめつつ、ドル円の上昇によって日本に構造改革の時間的余裕を与えようというのが、G7の表舞台には現れない、大人の政治的合意というものでしょう。
この合意はせいぜい125円までというのが常識的な線でしょうが、長期的なドル円チャートは非常にブリッシュで、日本の個人パワーが爆発すれば、政治的な思惑を完全に超えた円安の可能性もありそうです。
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