誰しも貧困から誘われている
原油をはじめとした商品市場が上昇トレンドを描く一方、我々の賃金は、相変わらず強い下方圧力を受けているように感じられます。
商品が上がっても賃金が上がらないからスタグフレーションにはならないだろうと、我々サラリーマンに取っては恐ろしい予測をする人もいます。
ルポ貧困大国アメリカ では、イラク戦争を貧困ビジネスと看破しています。
米軍はマイノリティの貧困層をリスト化し、教育費の援助など甘い言葉で巧みにリクルート活動を展開。
チェイニー副大統領が個人大株主であるハリバートン社グループの派遣会社は、時給2ドルでフィリピン人をイラクに送っているのだそうです。
ミッションが明確でないプロジェクトは、何時しかプロジェクトの遂行自体が目的化してしまいますが、イラク戦争は貧困層救済のための公共事業となり、ついには民営化された戦争による貧困ビジネスと成り果てたようです。
もしも低賃金でイラクに行く貧困層がいなければ、この戦争は財政的に継続不可能となり、もう終わっていたかもしれません。
彼らはイラクで運悪く健康を害せば、さらに貧しくなり、社会の最底辺を彷徨うのです。
そもそもアメリカの繁栄の仕組みとは、まず強大な軍事力でアメリカの国土を防衛。
そうしてドルの価値を維持した上で、ドルを世界中に出稼ぎさせて高い運用利回りを挙げて還流させます。
ドルに危険が迫れば、どこにでも軍を派遣するので、誰しもドルの近くにいることを好みました。
9.11以前には一度も攻撃されたことがない安全な本土では階級間の移動は少なく、資本力がそのまま収入格差となるため、少数の富裕層が安定的独占的に富を占有し続けることが出来ました。
富裕層が特別に優秀というよりは、所有する資本の力がその権益を守り、それがまた子供に引き継がれていきます。
高等教育は富裕層のネットワーク作りが目的ですから、私立大学が中心で、日本のように国公立大学は育ちませんでした。
高額の教育費は貧困層が富裕層になるための参入障壁でもあります。
虐げられた貧困層が反乱を起こさないよう、スポーツや芸能界、IPO市場を十分に発展させ、たまのアメリカンドリームを派手に宣伝し、マイノリティの不満を抑えています。
「American dream come true!」
ハリウッドはその広報機関として、手厚く保護されて来ました。
貧困層が劇的に増加するのは、大きなイノベーションが起こり、その急激な変化に付いていけない層が増える時だと思います。
古くは産業革命。
ドイツ人であるエンゲルスはイギリスで広がる貧困を見て衝撃を受け、1845年に「イギリスにおける労働者階級の状態」を出版、マルクスに大きな影響を与えました。
但し、成熟した資本主義の後に社会主義が現れて階級闘争が終わる、というマルクスの歴史観は、まだ証明されていません。
水野和夫氏は、著書「人々はなぜグローバル経済の本質を見誤るのか」の中で、1995年から世界は変わり、帝国の時代に入った、と主張します。
ウィンドウズ95が契機となったIT革命は、ホワイトカラーの生産性を向上させ、情報が瞬時に世界中で共有化されるシステムを作り出しました。
ロジスティクスのコストが激減した世界では、移動コストが高い人間の労働力は、すぐに世界を飛び回ることが出来る資本に対して不利となり、資本の優位性が際立つことになりました。
資本は労働分配率を上げることを好みませんから、労働者は「増えない総賃金」を奪い合うしかなく、生存のボーダーラインが上がって落伍者が増えます。
人間の労働力よりも資本の方が稼ぎが良いとなれば、勤労への尊敬は失われ、人間同士の連帯感が薄れていきますから、モラルは低下する方向に磁力が働きます。
こうした風潮の中、「売り逃げた者が勝ち」とばかりに、サブプライムローンの被害は世界中に拡散したわけですが、その教訓が今後どう生かされようとしているのか、そして働くことの価値が復権する可能性があるのか、その道筋はまだ見えていません。
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