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May 30, 2010

J-REITは負の暖簾をどう使うのか

日本レジデンシャル投資法人(NRI)の資産を新設合併の形で取得したアドバンスレジデンス投資法人(ADR)には、負の暖簾が500億円発生しました。

これは受け入れたNRIの資産価格と、そのために発行したエクイティ総額の会計上の差額概念ですが、要するに、それだけ安く買えた、ということです。

この利益は今期(平成23年1月)決算にて一気に利益計上される予定なので、業績見通しは、
「売上210億円、経常利益24億円、純利益524億円(!)」
と、純利益が売上の2.5倍もあるスーパー好決算になっています。

この500億円に課税はされないので、そのまま利益剰余金としてプールされますが、今後この500億円は何に使われることになるのでしょうか。

ADRの開示によれば、

①物件売却時に売却損が発生した場合、当該売却損失が分配金に与える影響を吸収
売買市況が低迷している時期においても、ポートフォリオの質向上のための物件入れ替え、若しくは、有利子負債返済の資金調達のための機動的な物件売却が可能となると考えています。

②増資を実施した場合の分配金の希薄化を抑制
増資を実施した場合には、投資口増加による分配金の希薄化が予想されますが、利益剰余金の取り崩しにより希薄化の抑制を図ることができると考えています。

③合併等の特殊要因が分配金に与える影響を緩和
合併関連費用、負債評価差額償却費などの特殊な費用が分配金に与える影響を吸収し安定的な分配を実現します。

としています。

具体的には、今期分配金の構成を見てみるとわかります。

【第1期分配金の考え方】
当期純利益      52,417百万円
負ののれん発生益  -)49,987百万円
負債評価差額償却費相当分 +) 3,368百万円
合併関連費用等相当分    +) 161百万円
分配金総額      5,959百万円

「負債評価差額償却費相当分」というのは、
NRIを合併して借入金等を吟味してみると、実際には引継ぎ時の簿価よりも多いことがわかったので、その分を調整するために費用が増え、結果として減少してしまう分配金を穴埋めするために使った、
ということです。

合併関連費用等相当分も同じことで、今回の合併手続きのために一時的な費用がかかったので、それを穴埋めします、という意味です。

今後とも物件売却で損が出たとか、何らかの理由で安定的な配当に支障が出た場合に、それを補填して安定配当する原資とします、ということになります。

500億円から今期決算で35億円使う予定なので、残りは465億円。

現在の発行投資口数722,306口に年間9000円配当する(現在の株価に対して約7%の利回り)として、年間65億円必要。

仮に運用資産からの利益がゼロになっても、7年間は配当を継続できる計算です。

実際には規約上の制限等がありますし、利益剰余金といっても現金を保有している訳ではないので、各年の減価償却費相当額が上限となるでしょうが、いずれにせよ多額のバッファーを持ったということになります。

このいわば「配当安定化基金」を、投資口価格の形成要因として、どの程度評価すべきなのか。

個別の問題点としてADRの場合、合併によってLTVが従来よりも高くなってしまったことと、決算期の調整により、来年3月以降まで分配金が受け取れないというマイナスが生じています。

今月になって60億円程度の資産譲渡を発表していますが、保有物件売却だけで十分な負債圧縮が出来るとは思えず、公募増資も当然視野にあるでしょう。

こうした要因が、多額の負の暖簾の効果を相殺してしまっているため、現在の低j評価(配当利回り7.3%)に繋がっているものと考えられます。

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