没落する文明
「没落する文明 (集英社新書)」
は、国家と暴力との考察で最近メディアへの登場も増えた哲学者萱野俊人氏と、科学史を専門とする神里達博氏の対談です。
第一章「天災が日本人をつくってきた」では、自然災害が多い日本において権力というものが軽視されるメカニズムについて考察されます。
現場主義の行き過ぎや宗教性と合理性の混同など、「決められない現代日本政治」の源流にも通じる議論です。
第二章「テクノロジー・権力・リスク」では、農耕自体が持続性に欠ける事、リスクが国家に集中していくプロセスなどが議論されますが、これらは金融危機や欧州債務問題にも関連します。
第四章「エネルギーと経済のダイナミズム」では、経済成長とエネルギーの関連、バブルの成因、人口減少時代のリスク管理が議論されます。
第五章「国力のパラダイム・シフト」では、今後の国家像、国家が管理すべきリスクが提示されます。
本書が語るように、文明や経済成長に限界が近付いていることは自明であり、改めてそれを確認する対論に目の覚めるような斬新さがあるわけではありませんが、今すぐにでも教訓としたいのは、第一章で語られる日本の意思決定システムの脆弱さ。
論理よりも情緒性、合理性よりも純粋な動機が優先され、過剰にコンセンサスを重視し、「誰も決めてはいけない」裏ルールの存在。
○か×という純潔性議論に没頭し、健全な政策ミックスやポートフォリオ的なリスク管理が語られないメディア論壇。
現代日本の課題の源流を探ろうとする試みは知的刺激があり、楽しく読めました。
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