64(ロクヨン)横山秀夫
横山秀夫7年振りの新作「64(ロクヨン)」は、紛れもない力作かつ秀作ですが、名作というには一歩足りない感じです。
著者は、組織の論理に悩む個人の心の襞を描くことに卓越し、これまで多くのベストセラーを生んできました。
今回、舞台はお馴染みのD警察。
主人公の三上広報官の心理は、これでもかというくらい掘り下げている割りに、彼を取り巻く部下たちや周辺人物の造形が甘く、どうも感情移入できません。
特に女性の書き込み方に不満が残りました。
準主役とも言うべき新聞記者たちも、本人が記者であっただけに徹底したリアリズムで描写しようとしたのでしょうが、あまりに行動がエキセントリックすぎて途中から引いてしまいました。
昭和最後に起こった誘拐事件の謎を、警察組織の人事的な思惑と絡めてグイグイと引っ張り、大団円に纏めていく力は流石ですが、正直もう少し短くなりそうですし、これまでの作品と比べて脇役の魅力に乏しいことが深い余韻を残すまでに至っていない理由かと思います。
他の作家であればこれで代表作でしょうし、本作も幾つかの賞にも恵まれるかもしれませんが、著者にはまだまだ上を目指して欲しいところですので、星4つですね。
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