木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか
「木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか」
は、善悪を超越した”怨念の書”です。
柔道経験のある著者は、平成5年に木村政彦が逝った時、「力道山に負けた男」という彼の汚名を晴らすため、資料を集め始めました。
それから18年。
膨大な調査と取材から再現される木村政彦の人生は、あまりに人間くさく、執念と後悔、慚愧と愛情に覆われた壮絶な物語でした。
著者の「復讐」は、柔道界の歴史そのものへと掘り下げられ、なぜ一流派に過ぎない講道館が日本柔道界全体を支配していくのか、だから日本柔道は世界で勝てないのか、だから石井慧をはじめ柔道界の猛者が総合格闘技へ逃げ出すのか、グイグイ切り込んでいきます。
大山倍達、梶原一騎、真樹日佐夫など懐かしい無頼たちも登場。
あの「空手バカ一代」が歪曲してしまった極真空手を巡る真実も明らかにされます。
そもそも柔道は柔術であり、荒々しい武闘技術。
右翼、やくざ、在日朝鮮人など、この国で差別され、本音で生きるしか無かった者たちの汗臭い人生がムンムンと匂ってきます。
日本がまだ戦後の混乱と成長への狭間で混沌とした時代、プロレスは表と裏を繋ぐ、微妙な立ち位置でした。
裏から表への登竜門であり、表から裏への転落口でもあり、「八百長か真剣か」という不毛な議論の中で、多くの人が深く傷つきました。
徹底的に書かなければ、限界に挑んだ男たちの魂に絞め殺されるかもしれない。
そんな息苦しい必死さが詰まった本を、久々に読ませてもらいました。
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