クリミアはロシアの核心的利益

プーチンのメッセージは、そういうことでしょう。

中国のように、欲しいものは何でも核心的利益と乱発するのに比べれば、まだ理解できます。

ロシアの軍事的行動が、この地域に限定されるのであれば、欧米は実効性ある制裁措置を取れないように思います。
逆にロシアも、軽々に軍事行動の範囲を広げると、利益を損なう羽目になりそうです。

クリミア地域に関して、歴史の「おさらい」をしてみました。

15世紀中頃、クリミアにはモンゴル系タタール人の国家、クリミア・ハン国が成立。
建国したのは、チンギス・ハーン後裔の王族、ハージー・ギレイです。

クリミア・ハンはイスラム教国家ですから、オスマン・トルコとは友好関係（＝保護下）にありましたが、当然ながらロシア正教とは仲が悪く、度々モスクワまで遠征して火を放ちました。特に1571年のモスクワ大火が有名です。

しかしながら、1768年に始まった露土（ロシアVSトルコ）戦争の後はトルコの国力が衰え、1783年にクリミアはロシア帝国に併合され、その後はロシア人が多く移り住みました。

1853年、エルサレムの管理権を巡ってフランスとロシアの争いになった時、ロシアがギリシャ正教徒の保護を口実にトルコへ進軍して、クリミア戦争が勃発しました。
いつの時代も、自国民保護は軍事行動の理由になります。

ロシアの影響力増大を嫌う英仏はトルコを支援。
そのためロシアは単独で連合軍を相手にすることになりましたが、既に産業革命が始まっていたイギリスは鋼鉄製の大砲であったのに対してロシアは青銅製であり、戦力に大きな差がありました。

戦後のパリ講和会議では、オスマン帝国の領土保全や黒海の中立化が定められ、ロシアの南下政策は頓挫します。

このクリミア戦争は、現代へと続く大きな歴史の転換点となりました。

工業化の遅れを痛感した12代皇帝アレクサンドル2世は、農奴解放令を出すなど近代化に邁進しますが、同時に専制政治体制の弱体化を招き、2代後のニコライ2世でロマノフ王朝は崩壊します。

ナイチンゲールは良家の生まれであり、非常に高い教育を受けていたので、統計学を用いて本国イギリスに野戦病院の衛生状況の改善を説得しました。
プレゼンテーションの重要性を知っていた彼女は、「鶏のとさか」と呼ばれる円グラフを用いました。

カーディガンはクリミア戦争で生まれました。
当時は頭から被る厚手のセーターが主流でしたが、治療のしやすさから前開きのカーディガンが普及しました。

カーディガンは、クリミア戦争に従軍し、数々の絵画や音楽になった「軽騎兵旅団の突撃」を指揮した第7代カーディガン伯爵の発明です。

フランスは天候の急変で多くの艦船を失ったため、天文学者のユルバン・ルヴェリエに命じて暴風雨の研究をさせましたが、これが現在の天気予報の基礎となりました。

トルストイは実際にクリミア戦争に従軍して、セヴァストポリの戦いでの体験を『セヴァストポリ物語』に書いた他、「戦争と平和」「アンナ・カレーニナ」など、その経験は多くの作品に活かされました。

さて、クリミア戦争後もロシアは南下政策のチャンスを窺っていましたが、1875年にバルカン半島のボスニア・ヘルツェゴビナでギリシア正教徒がオスマン帝国に反乱をおこすと、ロシアはふたたびオスマン・トルコと開戦。

徴兵制の施行などアレクサンドル2世の改革の成果もあって、ロシアが勝利。
ロシアはトルコとサン・ステファノ条約を締結し、ブルガリアを自治領（ロシアの保護下）としました。

これに対し、イギリスとオーストリアが激しく反対したため、1878年にドイツのビスマルクが仲裁のためにベルリン会議を提案。

ロシアへの各国の警戒心は強く、締結されたベルリン条約では、ブルガリアにおけるロシア権益が大幅に制限されたため、ロシアは西方地域での南下政策に限界を感じ、極東地域での南下政策により重きを置くようになりましたが、それは大陸における日本の権益との衝突を意味しました。

その時、軍事弱小国である韓国は、列強に浸食されていく「清」、尊大に振る舞う「北極熊」、躍進著しい同じアジア人である「日本」の何れかに保護される道を選ぶより他に、選択肢はなかったのです。

当時のロシアの南下施策の主目的は、不凍港の確保による軍事的権益の拡大でしたが、今では天然ガスの販売による利益確保ですから、より洗練された知的な戦略が必要とされています。