書評「ポーランドに殉じた禅僧 梅田良忠」
「ポーランドに殉じた禅僧 梅田良忠」は、第二次世界大戦当時、ポーランド中心に東欧諸国で、日本大使館や朝日新聞社で働き、各国からはスパイとして監視対象となっていた梅田良忠の物語です。
最近になって良く知られてきた事実ですが、1920年前後に日本は、世界から見捨てられたシベリアのポーランド難民に手を差し伸べ、手厚く日本で介護してポーランドへ帰国させました。
そうした事実もあり、当時の日ポ関係は良好で、また両国ともソ連の出方に運命を左右されるという点で共通の関心がありました。
ヤルタ会談でスターリンが日本への参戦を約束した事実は、ポーランド亡命者ルートでスウェーデン駐在武官小野寺信に伝わったものの、ソ連に終戦の仲介を期待していた軍部はその重要な情報を抹殺した(消えたヤルタ密約緊急電―情報士官・小野寺信の孤独な戦い―)とされています。
しかし、実はヤルタから2年も前のテヘラン会談で既にスターリンが対日本参戦の方針を明らかにしていたことを梅田は掴んでいました。
一体どうやって、という謎解きを軸に、梅田のポーランド愛の遍歴が語られます。
著者は朝日新聞社勤務ですが、たまたま梅田のことを知り、様々な関係資料や生き残っていた当時の関係者の証言から梅田の人生を辿っていきます。
禅宗を学び、ポーランドのカトリック教徒に強い共感を抱き、ポーランド女性を愛し、帰国後は中学生の息子をポーランドへ送り、その子はワレサの「連帯」で働くことになる。
著者あとがきには、「こんなすごい人がいた、ということをとにかく伝えたかった」とありますが、その気持ちが良く理解できました。
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