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June 04, 2014

ドイツ中興の祖「ゲアハルト・シュレーダー」

Images_3欧州危機が去ってみたらドイツの一人勝ち。
その理由は痛みのある改革によって賃金上昇を抑制したからだ、と良く言われますが、その背景を詳述した日本語の書籍は非常に少ないのが実情です。

「ドイツ中興の祖ゲアハルト・シュレーダー」の著者は元NHK勤務で、今はドイツ在住のジャーナリスト熊谷徹氏。

本書は、2003年に「アゲンダ(アジェンダ)2010」という改革プランを策定し、過剰な社会保障を削減してドイツ病を治療したシュレーダーの政策と人物像に焦点をあてています。

アゲンダ2010は、サッチャー型の労働者に厳しい改革ですが、サッチャーと比べると、シュレーダーの生い立ちはずっと貧しく、かつ所属政党はリベラルの社会民主党(SPD)であったことが大きく異なります。

シュレーダーは父親を戦争で亡くして極貧生活と差別を経験し、働きながら夜間高校で大学入試資格を得て弁護士資格を取った苦労人。
早くにSPDに入党していて、本来は福祉を重視する立場のはずですが、見るからに恐い彼は甘えを許しません。

失業者は職を選り好みするな!と、生活保護費の一部削減、派遣社員の解禁、解雇規制の緩和など、ドイツ経済界が泣いて喜ぶ政策を次々と法制化。

国民からは支持されず、政権は「2010」年まで保たずに道半ばの2005年で政界を引退しますが、その果実は後任のメルケルが享受しました。

逆境から這い上がった彼は現実的な人で、政治哲学では食えないとばかりに、何事も金と権力。

プーチンとは大の仲良しで、引退するや否やガスプロムの関係会社に就職。
現職時代、ロシアからのパイプライン建設を進めた当の本人が露骨に天下るとは常識外れで、当然激しく非難されますが、どこ吹く風。

現職時代、議会の反対にも関わらず中国への武器輸出を目指した彼は、退任後に中国外務省の顧問にも就任。
ダライ・ラマ14世と会見したメルケル首相を「中国国民の感情を傷つけ、両国の友好を損ねた」と批判するなど、経済的利益を優先。

まあ、このくらい割り切った人でないと、既得権益に切り込む大胆な改革は出来なかったでしょう。

欧州を広く見渡した場合、イギリス病の英国にはサッチャー(首相在任1979~90年)が現れ、東ドイツ統一で疲弊したドイツにはシュレーダー(同1998~2005年)が現れて労働者に活を入れましたが、今のフランスでは、むしろ排他的な極右勢力が台頭しているところが強く懸念されます。

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