長期的に見れば為替リスクは無視できる
国際通貨研究所が作成した左図が示すように、二国間の為替が長期的に購買力平価に収斂することは良く知られています。
物価の上がる国の通貨は、実質の購買力が下がっていくことになるので、交換価値は下がります。
1$=360円から始まったドル円の変動相場は、日本の方が米国よりも物価が安定しているため、同じものを買うために多くのドルが必要になっていく、即ち円の交換価値が上がっていった歴史とも言えます。
もしも円の価値が上がると全員が予想すれば、貿易による実需は別にして、誰も円を売ってドルに交換する損な取引をしようとする人はいなくなり、通貨の交換そのものが成立しません。
しかしながら、一般に物価上昇率の差は金利差と概ね同じですので、インフレ国通貨には、より高い金利が付与されます。
物価上昇率の差と金利差が大体同じであるなら、交換しても良いという人が現れます。
つまり、デフレ通貨を売ってインフレ通貨を買う行為は、通貨の予想下落分を金利による収益が補填してくれることを期待する取引と言うことになりそうです。
実際に長期的な為替取引で、そうした「埋め合わせ」が成立しているのでしょうか。
左のグラフは、長期(約30年)のドル円(青の折れ線)と日米政策金利差(赤の棒線)の推移です。
始点は、まだ平成バブルもプラザ合意も起こっていなかった1983年としました。
(データ出典:Federal Fund Rate、日銀旧公定歩合)
緑の線は、仮に1983年1月に、当時のレート233円で1ドルを買い、ドルベースでの金利(月単位単利)を加えた価値を各時点の円で示しています。計算に金利「差」を用いているので、円ベースでの利息は相殺されて計上されていません。
緑の線がスタート時点よりも上にある時は、ドル金利に加えて円安ドル高で利益。
下にあれば、金利分よりもドル安円高になっていて、損が出ている状態です。
そして30年あまりが経ち、233円は244円になりました。
為替レートは233円から102円と半分以下になっているので元本は大損ですが、この期間の金利収入の累計で埋め合わせて若干のプラス。
要は、ほぼトントンという結果です。
無論、緑の線は平坦ではなく、上下に大きく振れていますので、売買のタイミングによっては大きな損失が出る可能性はありますが、円高局面で買って長く待てるとすれば、高い確率で買値を上回る局面が訪れています。
これは、金利差で説明出来ないような相場の歪みは、いずれは是正されて正しい軌道近くに戻るということを意味しているのかもしれません。
個人投資家最大のメリットは、焦らずにじっくりと時間を味方に付けることが出来ること。
腰を据えて長期的に取り組むなら、為替リスクを過剰に恐れる必要は無さそうです。
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