日本人のためのピケティ入門
ピケティの「21世紀の資本」が書店に並んでいますが、あまりに高額(5940円)かつ大部。
「日本人のためのピケティ入門: 60分でわかる『21世紀の資本』のポイント」は、コンパクトな解説本です。
ピケティは、2世紀にも渡る膨大な税務資料から、「資本収益率(r)>経済成長率(g)が成立する」ことを実証的に確認したということですが、これに対しては異論もあります。
しかしながら、漫然と感じていた格差拡大に理論的なバックボーンを与えたという意味で、特にいわゆるリベラル派にとっては、非常に使い勝手の良い道具として歓迎されています。
ピケティが定義する「資本」には、株も債券も不動産も機械も全部入り。
特にITが発達したこの20年ほどで、中流層が二分され、所得に溝が出来たことを多くの人が実感しています。
日本の場合、両岸の労働者を流動化せず、正社員と派遣社員に分離したことが、余計に格差を固定化しました。
賃金は経済成長率程度にしか増えず、資本収益率が常にそれに勝るとすれば、これこそが「搾取の証明だ」となりがちですが、ピケティは特段マルクス的では無く、むしろ現在の市場経済を守るためには一定の修正が必要と考え、グローバルに累進的な資産課税をすることを提案しています。
こうした国際協調は政治的に夢物語でしょうが、各国単位で累進的な資産課税を強化することは可能です。
消費増税は逆進性を非難されますが、使う限りは課税漏れが無いという意味では、タックスヘイブンで節税しているような超富裕層には効果があります。
かつての日本の「物品税」には明らかに、このような意図がありました。
資産課税強化の方向性は、今後の資産形成が難しいと思われる若年層への資産移転という視点にもかない、方向性自体には賛成です。
しかしながら日本の場合には、徴収した税金が老人ばかりに使われるので、これを是正しないと世代間格差は解消されないという別の問題があります。
「第三の矢」は、「福祉よりも次世代への教育投資」という本筋の議論に切り込めるかどうかが鍵であり、日本の停滞を貨幣現象として歪曲するのは、政権側に都合が良いからです。
ピケティはフランス社会党の経済顧問ですから左側の人でしょうが、フランスは革命が起こりやすいお国柄であり、今のうちに資本主義に一定の軌道修正を試みないと、また社会不安が高まるという健全な危機感を持っているのだろうと思われます。
なお、トマ・ピケティ『21世紀の資本論』を30分で理解する!―週刊東洋経済eビジネス新書No.76も、さらに安く、コンパクトに纏まっています。
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