円高・デフレが日本を救う
「円高・デフレが日本を救う (ディスカヴァー携書)」は、いつもながらの小幡節で、通貨が強くて物価が安い方が嬉しいという当たり前の話が展開されます。
デフレと不景気はしばしば混同されますが、物価が安定しているのは基本的には良いこと。
極端な話、もし1$=1円なら、今の100万円が1億円の価値を持ち、日本人は働かずに紙幣を印刷するだけで生きていけるでしょうから、通貨高も基本的には良いことです。
最近一部では、人の動きが活発になって円安による景気回復を実感する、と言われますが、数年前よりは円安で労働価値が割安になったので、たくさん働いてドルベースでは同じ稼ぎ。
「円高・デフレが日本を救う」の立場から見ると、日本が安売りされて、貧乏暇無し状態になっているだけじゃん、ということになります。
あらためて日本の物価を振り返ってみると、グラフのように極めて安定しています。(出典:世界経済のネタ帳http://ecodb.net/country/JP/imf_cpi.html)
これだけ安定していると、為替は海外との物価の差を調整するため円高になるので、国内生産が割高になり、製造業は海外での生産を増やし、国内での雇用が減少します。
企業は非正規社員を増やして対応しましたが、この時日本は、正社員と非正規社員の待遇を公平にするのでは無く、正社員の既得権を守ることを優先したため、「格差」が広がりました。
総人件費抑制の負担は専ら非正規社員が被り、正社員は待遇据え置きで物価は横這いですから、不況感は限定的でした。
単純化すると、円高が悪いと思うか、円高への対応に問題があったと考えるかの立場の相違で、「異次元緩和大歓迎」となるか、「リフレはヤバい」となるかに分かれるとも言えそうです。
とはいえ、日本の物価が世界と同じように上昇すれば、そもそも「円高による空洞化」は起こらずに済んだのではないか、という疑問は残ります。
日本の物価が上がらなかった理由は諸説あるようですが、一つは、中国発のデフレ圧力が、近いだけに日本に最も強く作用したという説。
バブルで高くなりすぎた物価が、長い時間をかけて調整する必要があったという説もあります。
まあ両方かもしれませんが、いずれにせよ、今や中国の人件費も上昇し、日本の地価はアジアの投資家から見て割安にさえなりましたから、今後は従来ほど強いデフレ圧力は想定されないと考えて良さそうに思います。
ドル円が100円~120円のレンジであれば、極端な円高でも円安でも無く、日本の失業率は低い。
為替と気分に働きかける黒田緩和の役目は終わり、やるべきことは地道な「カイゼン」しか無いという、これまた当たり前の結論です。
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