西太后秘録 近代中国の創始者
「西太后秘録 近代中国の創始者」
は、あの「ワイルド・スワン」
の著者「ユン・チアン」が、毛沢東の死後に公表された知られざる資料から、過去の俗説を排し、西太后の実績を再評価したというのが最大の売りになっています。
史実に基づかない映画や珍妃の井戸投げ入れ等により、残酷で情け容赦のない権力の亡者というイメージも強い西太后ですが、本書では中国の近代化に心を砕いた「憂国の士」として描かれます。
クーデターも光緒帝暗殺も、全ては国の将来を思ったが故のやむを得ない判断という立場を取っています。
従って、宦官との恋愛や、無駄遣いの代表のように言われる頤和園建築についても、同情的な筆使いです。
無論、ユン・チアンにも一定のバイアスはあるでしょうが、今の漢民族政権からすれば、異民族王朝である清の時代を高く評価したくないというバイアスの方がより強いと考えるのが妥当でしょうから、本書の解釈に耳を傾けることは重要であるように思われます。
著者の意図としては、西太后の治世を見直すことで、
「だらしのない清朝が日本に侵略を許し、それを打破したのが今の...」
というプロパガンダ性の強い認識に、疑問を投げかけたいという想いも強くありそうです。
日本人にとっては、日清戦争を始め、日中の現代史の基礎となった時代を今一度視点を変えて振り返るという意味で、大変意義深い著作だと思います。
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