MUFGの1兆円を支えた海外投資
先週発表された三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の決算は、日本企業としてはトヨタに次いで連結純利益が1兆円を超えました。
今日の株価は+4.6%の912円となり、壁だった900円を突破しましたが、PERは12.5倍と特段の割高感はありません。
好業績の象徴は、二つの海外投資案件です。
2008年、金融危機で瀬戸際に追い込まれたモルガンスタンレー(MS)への90億ドル(約9000億円)の出資はドラマティックでした。
これは、その時の小切手です。
9月に出資要請を受けた三菱側が最終決断したのは、10月12日の日曜日。
アメリカの金融当局から、MSは破綻させないという言質が取れたからだと言われています。
しかしながら何とも間が悪いことに、翌13日は日本が体育の日、アメリカがコロンブスデーの休日で、双方が銀行休業日。
MSの株価は、銀行業への転換(FRBの傘下入り)と金融安定化法(TARP)という二つの支援材料にも関わらず、なお下落し続けており、前週金曜日には、危険ラインと言われた10$を切って9$台。
MSの金庫は底を突きかけていましたが、当然ながら借り入れなど論外の状態。
休み明け14日の銀行送金を待っていては、株価が更に急落し、市場による死刑宣告を見た顧客が資金を引き出しに来て敢えなくブー、という事態さえ懸念されていました。
切羽詰まった状況の中、アメリカにいた三菱UFJ首脳の指示で異例の高額小切手が切られ、休日の13日にMSの弁護士事務所に詰めていた副会長のキンドラーに手渡されるという、まるで映画の一場面を思い起こさせるような記念品です。
この事実が伝わると、MSの株価は、14日に倍の18$、翌15日には21$と劇的に回復しました。
当初は10%配当の優先株でしたが、今では22%の普通株に転換。
日本から2名の役員も派遣しています。
なお、本案件はよく、バフェットのゴールドマンサックス(GS)への投資と比較されますが、バフェットの条件は、「10%の優先株50億ドル+5年以内に115$で購入できるワラント50億ドル」でしたから、この優先株の条件が下敷きとなったのは間違いのないところです。
その後GSはバフェット(バークシャーハザウェイ)の権利の大半を買い取ったため、今バークシャーはGSの2.8%株主の立場です。
バフェットは、本件とGEの2件の「金融危機案件」で、約1兆円を稼ぎ出しました。
バフェットは純投資でしたが、MUFGは当初から持ち分法利益を計上できる20%を目標としており、毎年の決算を底上げ出来る長期投資を選びました。
現在のMSの時価総額は9兆円ですから、9000億円は時価2兆円と2倍以上。
取り込める持ち分利益は約800億円と、簿価利回りは10%近くになりますから、慎重な邦銀としては、果敢にリスクテイクした成功例と言えそうです。
もう一つは、タイのアユタヤ銀行。
こちらは77%所有の子会社なので、利益は100%取り込んでいるはずで、約500億円。
2年前5600億円で買ったときは少し高いという報道が多かったのですが、現在の時価総額は1兆円なので、三菱の持ち分7700億円は3割以上アップです。
今回MUFJの最終利益は前期比5.0%増の1兆337億円ですから、この二つが無いと1兆円に届きません。
大変めでたいことです。
Comments
今回も大変楽しく読ませて頂きました。
日本の企業 特に金融機関は外国企業の買収などで多く失敗していると思っていたのですが、三菱UFJはうまくいっていたのですね、確か同じころに野村も投資して失敗したと聞いたような気がします。タイもその後クーデターなどがあったりとどうなったかと思っていました。
資金繰りに余裕があると、危機の時に大きな利益を上げることができますね。今、日本の企業では内部留保を取り崩すのがトレンドになっていますが、内部留保は贅肉ではないので整理する必要は無いと思うのですが。安値で増資して高値で自社株買いするなんて良くないとも思うのですが。企業も、年金も外国人投資家の思い通りに動かされているような気がしてしまいます。トヨタの2兆円の利益のために円安で普通の人は多くの損をさせられているのが実態だと思うのですがどうでしょうか。
Posted by: 弱気投資家 | May 19, 2015 11:25 PM
野村証券は念願の海外進出を果たすため、破綻したリーマンの一部事業を買ったのですが、これは高額報酬で人を雇ったに等しく、マネジメントが上手く行かなかったと総括されているようです。
タイのクーデターは政権交代みたいなもので、むしろ今の方が安定している感がありますが、タクシン的な価値観を巡る対立が消えた訳ではないので、円滑な民政移管が出来るかというと懸念は残ります。
内部留保というと、現金があるような錯覚をしている大臣もいるようですが、おっしゃるように、自社株買いはROEの分母を少なくしてハイレバ化することなので、株価が安すぎる場合の選択肢だと思います。
為替の適正水準は難しいのですが、私は購買力平価から考えても1$100円くらいが輸出入のバランスが良いと思っているので、現行水準は国民全員が輸入物価の上昇を我慢する代わりに、輸出企業に補助金を与えているようなものだと思っています。
理論的には現状の円安水準は長続きせず、どこかで円高になるか、日本の物価が更に上がっていくか、どちらかの方法で市場は均衡点を探っていくことになると思います。
あくまで中長期的にですが。
Posted by: akazukin | May 20, 2015 08:17 AM