フランスの資本主義はどこに向かうのか
市民革命によって共和制を獲得したフランス。
「人民の代表たる政府は、積極的に雇用者保護に関わるべし」ということなのか、伝統的に企業活動への政府参加に寛容です。
戦後すぐに、主要銀行やルノーが国有化され、「資本主義との決別」を訴えて1981年に大統領となった社会党のミッテランの元では、5大企業グループや銀行36行など国有化の範囲が広がりました。
同時に、週の労働時間を1時間短縮する一方で賃金は据え置き、有給休暇は4週間から5週間に増加と、労働者に優しい政策を打ち出し、政府職員も10万人増加。
政府支出の拡大で雇用拡大、国有化による安定で内需促進、高額所得者に対する課税の強化で公平が実現という、いかにも欧州の社会主義者らしい理想が語られました。
結果、国有化された企業は生産性が急低下して巨額の赤字に陥り、財政赤字は肥大化し、サウジアラビアから緊急融資を受けて資金繰りを凌ぐ始末。
85年の国政選挙で敗北した社会党は、共和国連合のシラクを首相に据えて民営化の方向へ舵を切りましたが、かつての名残りで、政府の保有株が一定程度残っているのが現状です。
2007年に大統領に就任したサルコジは、移民から苦学して頂点に立った努力の人であり、暴動に参加する若者を「社会のゴミ」と呼ぶ保守主義者でしたが、後を引き継いだ現在の大統領は、再び社会党のオランド。
オランドは選挙期間中の2012年2月、フランス北東部の町フロランジュにおいて、インドの鉄鋼会社ミタルが高炉閉鎖を検討していることを受け、工場の閉鎖をする雇用主にその売却を義務づけて雇用を維持する法律の制定を約束しました。
紆余曲折の末、翌年制定されたフロランジュ法では、工場閉鎖時に売却先を「探す」ことを義務づけるとトーンダウンしたものの、長期株主の保護強化のため、従来は定款で定める必要があった2倍議決権を、今後は株主名簿に2 年以上登録されていれば当然に付与することも定められました。
ただし、この2倍規定の適用は、反対株主が3分の2以上いれば適用されません。
そして今年4月、ルノーの株主総会。
17.8%の議決権を持つフランス政府と、カルロス・ゴーン氏ら経営側との間で2倍議決案をめぐり激しいプロキシーファイト(議決権争奪戦)が行われましたが、2倍に反対する株主が40%にしか達せず、ルノー経営陣側が敗北しました。
フランス政府は事前にルノー の株式を最大12億3000万ユーロ(約1600億円)購入して、議決に備えたとされています。
フランス政府の議決権は、これまでの17.8%から28%程度となり、さらに大きく経営に関与することになりました。
ルノーは日産の43%株主でもあり、日産はルノーの世界戦略の中で不利益を押しつけられる懸念がありますが、そこにフランス政府の利益(フランス人の雇用)という視点まで入ってきた場合、ルノー・日産連合の経営は、より複雑で不安定になるかもしれません。
そして今月8日、フランス政府は、エールフランスKLMの株式を買い増しすると発表しました。
仏政府は同社の株式を15.9%持つ筆頭株主ですが、さらに最大4590万ユーロ(約62億円)で1.7%分を買い増す予定とのことで、ルノーに続いて2倍議決権反対案を否決に踏み切れると票読みしているようです。
現オランド政権は、100万ユーロ以上の富裕層に75%の所得税を課す「富裕税」を今年1月で撤廃し、さらには企業の社会保険料を軽減するなど現実路線に展開しつつある印象もありますが、2倍議決権については頑強に権利を保持したい意向のようです。
市場経済の元で、政府が民間資本よりも良い解決策を示せるはずだという考え方は、現在ではほぼ否定されていると思いますが、フランス政府は懲りずにチャレンジしてくる邪魔者なのか、それとも行き過ぎた市場経済の元では、家父長的な政府が健全な仲裁機能を果たすこともあるのか。
なお、ルノーのカルロス・ゴーンら経営者側は、対抗策を検討していると報道されており、例えば今後ルノーが、第三者割当増資で政府持ち分を薄めるような防衛(?)手段を取ろうとして、法的争いになるような可能性も考えられそうです。
Comments
フランス経済について大変勉強になり楽しかったです。AKAZUKINさんはフランスへ旅行に行ったことがありますか。私のフランスに関する精一杯の知識は、美術館でストがある、小さな駅では昼休みがある、自転車が走っていない、ママチャリは売ってもいない、店が日曜休みで不便、パリを離れた田舎だと英語が通じない、切符を日本でプリントアウトできる、フランスパンだけ安くて価格一定、パリ北部に黒人たくさん、さらに北にイスラム街、軍人の大統領がいた、ぐらいです。そのいくつかの理由が教えて頂いた事で理解できました。資本主義といっても様々なのですね。
Posted by: a | May 10, 2015 10:26 PM
aさん、コメントありがとうございます。
残念ながら、すぐ隣のジュネーブ(仏語圏で、ビールもフランス製でした)までしか行ったことがありません。
フランスは自国愛が強く、ある意味、アメリカ的でグローバルな潮流に強く抵抗しているというか、より人間的な働き方はないのかと模索しているといった面を感じますが、最近のフランスは昼休みも短くなって日本式の「ベントウ」が売れているとか、レストランの味がまずくなっているといったニュースを見ると、良くも悪くもグローバルマネーの圧力に押されている印象はあります。
とはいえ、個性が強いが故に、多くの文化的な遺産を作り出し、観光面では成功しているとも言えるので、経済的な面では少々旗色が悪いものの、やはり両面あるといった感じでしょうか。
フランス人は、日本のアニメファンが多く、柔道人口も本家より遙かに多いなど、日本文化に好意的と言われますが、日本人は余りストレス無く、「新旧」を上手く混ぜ合わせて生活しているように見えるのかもしれません。
Posted by: akazukin | May 11, 2015 11:50 AM