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June 17, 2015

「ドイツ帝国」が世界を破滅させる

「ドイツ帝国」が世界を破滅させる 日本人への警告 (文春新書)は、エマニュエル・トッドの幾つかのインタビューの纏めです。

トッドは、ソ連崩壊、米国発金融危機(いわゆるリーマンショック)、アラブの春を次々と予測した(ということになっている)ので、常に予見的であることを期待されています。

本書では、そのタイトルが示すように、フランスの弱体化を嘆き、ヨーロッパ全体をドイツが支配しつつあると現状を分析しています。

トッドは常に人口や幼児死亡率を重視しますが、ドイツが支配する国を含めれば、ドイツが人口でアメリカを凌駕することさえ可能なようです。

ユーロ導入は、ドイツよりフランスが熱心だったと理解されていますが、結果的にはマルクより安いユーロはドイツのユーロ圏外輸出を支援し、ユーロ圏内では、本来弱い通貨を持つべきギリシャのような国々がドイツと対等の競争を強いられ、結果的にはフランスを含めて多くの国が隷属していったとして、トッドは口汚くユーロを貶しています。

ロシアについては、最近の人口の増加から国力の回復過程にあると考えているようですが、クリミア併合を含むロシア外交は基本的に防衛的であり、フランスメディアが煽り立てるロシア脅威論を過剰だとみなしています。
むしろ、ウクライナが右翼政治家に牛耳られ、国家として機能していないのが問題との立場です。

アメリカに関しては、欧州におけるドイツ台頭への牽制勢力として期待していたようですが、オバマはハワイ生まれでインドネシア育ちなので、大西洋よりも太平洋に目が向き、欧州におけるドイツ台頭を軽視したと評しています。

イギリスはアメリカに考え方が近いので、欧州大陸から離れていくのも仕方が無いと言った口調です。

アジア情勢については、日本とドイツが似ているという比較的言い古された話以外、ほとんど言及されていません。

フランス国内についてはエリート官僚と銀行による支配が格差の拡大を招いているので、銀行を国有化して零細預金者を保護すべきという、およそ現実的では無い話をしています。

フランスの伝統的な人間重視の価値観ではドイツの産業競争力に勝てないので、再び全体主義的な傾向が欧州を覆いつつあるという危機感があるものの、今や欧州はユーロ、EUという柵で囲まれていて逃げ出すことも出来ない。

ロシアが更に西側に勢力を拡大すれば、それはドイツVSロシアの戦いとなり、ドイツに隷属したフランスは、否応も無く巻き込まれてしまう。

本書には、「現代最高の知識人による世界情勢論」という帯が付いていますが、全体を流れるムードは、リベラル派フランス人の「知性」、というよりは「愚痴」です。

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