総選挙後、株も通貨も安いトルコ

先週日曜日に実施されたトルコの総選挙。

与党の公正発展党（ＡＫＰ）が過半数を割って258議席（総議席数550）にとどまり、批判票の受け皿となったクルド人中心の国民民主主義党（ＨＤＰ）が得票率13％で80議席を確保しました。

昨年、首相から大統領になり、この選挙で圧勝すれば「独裁するからヨロシク」と、憲法で禁じられた選挙活動に邁進していたエルドアン。
AKPの得票率41％という微妙な支持率が、トルコ国民の気持ちを表しています。

ちなみに投票率は86.5％と非常に高く、政治は生活と直結しています。

欧米メディアは、この結果を一様に歓迎し、地元でもＴＶのキャスターが、ここぞとばかりに饒舌になっていると伝えられています。
それだけ言論弾圧が強まっていた証拠でもあります。

第二党は、中道左派の共和人民党（ＣＨＰ）。

世俗主義、民族主義、共和主義を柱としたケマリズムを受け継いだ中道左派政党ですが、選挙前125議席を132に伸ばしました。

第三党は、民族主義者行動党（ＭＨＰ）で、52→80議席と躍進。
ＭＨＰは極右に位置づけられており、何しろ「行動」してしまうので、70年代にはクルド系住民を100名以上殺害するなどテロ行為を続発させて国内が大混乱。

たまりかねた軍部が1980年に軍事クーデタを起こし、ＭＨＰは非合法組織とされ、当時の幹部は投獄されるという忌まわしい過去を持っています。

過半数を割ったＡＫＰの選択肢としては、このＭＨＰがイスラム寄り、反クルドという点で比較的連立が組みやすいと見られており、現在水面下で条件交渉が行われていると報道されています。

市場の反応ですが、まずは株式市場。

選挙が近づくに連れて下がっており、5月高値に比べて、10％安です。

為替（トルコリラ対ドル）は、選挙後に史上最安値を更新しました。

対円では、1トルコリラが45円台半ば。
円安のせいもあって最安値ではありませんが、リーマンショック前の100円から見れば半分です。

最近、金利が5％台に落ちたランドに替わる「脆弱高金利通貨」として人気化させようという魂胆で、各FX会社のトルコリラ取扱が増え、「くりっく365」も5月から取扱開始。
現在のスワップは1日あたり122円と、単純計算で年利9.7％です。

トルコの政策金利の推移です。

2014年1月に、4.5％から10％に上げるという大英断（？）をした中央銀行ですが、選挙が近づくにつれて景気対策への圧力がかかり、7.5％まで下がりました。

政権の力が弱まれば、再度利上げ方向に向かって通貨の支援材料になる、という観測はあるものの、基本的にトルコ経済は、経常収支の赤字を直接投資や借り入れで賄う赤字構造であり、原油の輸入国。
現在のインフレ率は8％弱と、トルコとしては歴史的に低い水準ですが、かつては2割3割が当たり前。

最近の経済の実感は、一人あたりのGDPに現れています。

2000年代前半、一人あたりＧＤＰを2.5倍にした大躍進は、正に「公正発展」と言えそうですが、リーマンショックを跳ね返すほどの力は無かったようで、2008年以降は1万ドル付近で足踏み。

この間のAKP＝エルドアンは、国民生活の向上よりも、汚職疑惑の揉み消しによる権力の掌握とイスラム化に傾注していたと見られても仕方がなく、反政府デモが増えて治安が悪化し、オリンピック誘致では東京に負けました。

2012年には、約80億円をかけて、一度に3万5千人が礼拝可能な巨大モスクの建設に着手しましたが、何か勘違いしている、との評判も聞かれます。

トルコリラは十分に下がったと言えるのでしょうか。
物価水準を見て圧倒的に安ければ、通貨安が行き過ぎていると判断できるかもしれません。

タクシーは2ｋｍ乗って8ＴＬ（360円）ですから、東京の半分。
メトロ、トラムはプリペイドカードで100円と、6割水準。
ミネラル（500cc）は0.5ＴＬ（22円）と、かなり安い。
屋台のサバサンドが8TL（360円）は、まあ同じくらい？

ホテル内にある高級日本食レストラン「maromi(円味）」で、普通の「うどん」が17ＴＬ（＝765円）、鴨南蛮そばが30ＴＬ（1350円）。
東京と同じ価格帯なのは、今や安いと評価すべきでしょう。

現地の人と同じ生活なら東京の5～6割、地方に行けばもっと安いのでしょうが、首都イスタンブールでそれなりの物を買うのなら、ほぼ東京並み。
総合的には日本の7～8割といったところかと思われます。

驚くほど安いとは言えませんが、チューリッヒのラーメンが2500円もしたり、ロンドンで「全てが日本の倍だ」と、円安の惨めさを味わうようなことは無さそうです。

一番確実な逆張り方法は、旅行に行くことかもしれません。