マイナス金利は必要か
1月29日(金)のNY市場では、ダウ平均株価が前日比397$と大きく上昇しましたが、長期金利は1.92%へ低下。
日銀のマイナス金利政策によって米金利水準も押し下げられるから株は買える、という理屈かと思います。
相対的に健康体であるアメリカのFRBが「みんな、そろそろ退院だから準備してね」と言っているのに対し、いまだ日本は病気だと診断する日銀は、「まだまだ入院が必要だ、新薬も投入するぞー、行けー」と叫び、金融相場の継続を宣言したことへの反応とも言えそうです。
金利に敏感な為替相場では、ドル円が118.6円から121.1円まで2円50銭の円安。
通貨安政策としてのマイナス金利導入は、ひとまずその効果を発揮しました。
しかしながら、そもそも118円という水準は、十分に満足すべき円安水準です。
1ドルが76円だった2012年、1ドル=100円なら世界で堂々と戦ってみせる、と歯を食いしばって語っていた日本の経営者の姿を、私は忘れません。
従って、100円以上の円安は、国民全体が円安による輸入物価高を負担し、引き替えに輸出産業へ補助金を払っているのと同じことです。
そして今回は、預金者から金利を取り上げ、それを債務者に配ろうとする方向に一歩踏み出しました。
「キリギリスには飴、蟻さんには鞭」という政策は、殆どの人間のモラル感に対して挑戦的に映るはずです。
仮にこれで物価が本当に+2%となれば、0.1%以下の長期金利とは矛盾が拡大し、金融市場に大きなストレスが発生して危険です。
極端なマイナス金利社会を想定してみると、住宅ローンを借りると利息が貰える、そして、その利益に課税される、ということになります。
数億円借りて収益不動産に投資すれば、マイナス金利所得と不動産所得によって、働かなくても良いバラ色の社会が到来します。
しかしながら、預金者の通帳残高は毎日減っていくので、預金はドンドン引き出されていき、銀行の融資枠は減っていきます。
そこに融資希望が殺到すれば、逆にローン金利は上昇し、最後には融資が出来なくなるので、上述のような漫画的な状況は実現しないでしょう。
実際問題としては、銀行は収益が圧迫されても顧客の預金をマイナスにする手段までは取りにくいので、手数料の値上げ、口座維持費用の徴収、サービスの低下、顧客向けシステム更新の遅延などによってコスト転嫁を考えると思われます。
先行してマイナス金利を導入した欧州では、ユーロ安という効果以外にどういうメリットがあるのか、納得の行く説明はなされていません。
スイスでは、マイナス金利政策の導入で住宅ローン金利がかえって上昇するという逆の現象が起きていることが報告されています。
これは、預金の魅力が減る中で借り入れ需要が増えるということと、銀行に発生したコストの転嫁という両方の意味合いが反映されているのかもしれません。
日銀当座預金がマイナス金利になると、銀行は資金を積極的に成長分野に振り向ける、と受け止める人は少数派です。
既に借りたい人は借りられる状況ですから、無理な融資拡大はゾンビ企業の延命やバブル的な資産価格の上昇を助長する可能性が懸念されます。
結局余った資金は成長チャンスの多い海外=ドルに向かうものと予想され、日銀発表後のドル/円スワップのベーシスは急上昇しました。
金曜日のスワップベーシスは、26bp後半から29bp半ばの水準から、一時44.56bpまで拡大したと報道されています。
じゃぶじゃぶに溢れた円がドルを取り合うので、ドルを手に入れるコストが上昇し、外債などへの投資利回りが低下してしまうので、円安効果は限定的になると予想する専門家もいます。
78円という行き過ぎた円高の是正をスピードアップしたのはアベノミクスの成果でしたが、既に十分な円安水準である円を更に安くするという政策がなぜ必要なのか。
日経平均が2万円から陥落したのは、それに見合う実力が無かっただけの話であり、無理に円安の下駄を履かせて上昇させれば、次なる結果は見えています。
実力以上の決算を「工夫した」名門企業が今、分解されようとしているのは、粉飾自体のせいではなく、粉飾によって本当の課題が見えなくなり、対応が手遅れになったからです。
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