マイナス金利 ハイパー・インフレよりも怖い日本経済の末路
「マイナス金利」には、新書のように派手なサブタイトルが付いていますが、筆者はBNPパリバ証券債券調査部のアナリストであり、中身は至って繊細で慎重な金利分析の本です。
昨年の日経新聞には、「べーシス・スワップの拡大」という言葉がよく登場しました。
これは、日本勢が(つまりは円で)ドルを調達しようとした時の金利差が拡大している現象で、「米利上げがより強く意識され、ドルの需要が増大しているため」と、子供に教えるような説明がされています。
実際には、運用難に喘ぐ日本勢が、「おまけ」を払わなければドルと交換できない「ジャパン・プレミアム(モチロン悪い意味)」の発生だと筆者は解説します。
日経新聞12/5の記事によれば、期間10年でドルを調達する際の上乗せ金利は年0.8%前後とのことなので、海外勢から見れば大変おいしい話となっており、だからこそマイナス金利の短期国債にも海外からの需要があるということです。
本来、日本国債に償還不安があるのなら、金利が高くなって警鐘が鳴り、そこで財政健全化の圧力が発生するというのが伝統的な市場ルール。
しかしながら、日銀が新規発行される国債の殆どを買い取るので、金利は高止まりならぬ「低止まり」。
あり余った円は運用難ですから、企業や銀行が欲しいのは海外用のドル。
そこで、多くの人が円をドルに替えようとすると「おまけ合戦」になってしまい、おまけを払ったあとの実質円金利はマイナスになることが常態化。
整理すると、
日銀が国債を買う→金利は強制的に低い→円はじゃぶじゃぶ→ドルの取り合い→競って「おまけ」を払う→受取利息より支払利息が多くなる→円資金はマイナス金利化。
ここでは、日本財政のリスクは、ドルを調達する際の追加コストという見えにくい形で実現しており、国債暴落によるハイパーインフレという外科的な手術の代わりに、徐々に円の価値を蝕む内臓疾患のようになっている、と言い換えることが出来そうです。
このまま進むと、一体どうなるのでしょうか。
例えば、物価が0%で金利がマイナス2%という状態は分かりにくいので、物価が+4%で金利が+2%と置き換えてみます。
そうすると、物価上昇に金利が追いつかないので、預金者は貰えるはずの利息が貰えず、資産は目減りしていく状況がイメージしやすくなります。
とはいえ、銀行に預けた100万円は1年後も100万円(プラス微々たる利息)であり、98万円にすることは出来ないので、銀行は手数料の値上げや各種サービスの低下等によって、預金者に円保有コストを転嫁することになります。
銀行の株価が下がることで、株主にもコスト負担を求めることにもなると思われます。
為替市場での円は、見えにくいコストによって、本来の位置よりも円安で取引されることになり、一見すると輸出やインバウンド関連事業に有利ですが、実際には輸入物価が本来以上に高くなり、働けど働けど国全体は貧しくなるという形で、国債暴落リスクを先延ばしすることになりそうです。
なかなか見えにくい財政リスクを更に見えにくくしてしまうという事態は、粉飾決算によって自社の問題を見えにくくしてきた東芝が今になって大慌てしている姿と重なり合うものがあり、筆者の懸念はそこにあります。
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