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March 06, 2016

人民元を巡る攻防

開催中の中国全人代では、成長目標を6.5~7.0%と設定しましたが、実際の成長率は4%程度ではと、CNNは報道しています。

高速鉄道や道路など、インフラ投資に力を入れるようですが、作れば高成長という時代は終わり、公共投資の乗数効果が低下しているのは、かつての日本と同じです。

中国製造業の競争力が低下したのは、人件費の高騰が主因ですから、人民元を下げることが処方箋となりますが、これには資本流出とドル建て借入額の実質負担増という厄介な副作用があり、単純には解決しません。

Cnyusd2016030654

この1年間の人民元/米ドルレートです。

昨年の夏、突如として行われた人民元の切り下げショックは記憶に新しいところですが、その時に約2.5%下がり、その後も徐々に3%ほど切り下がり、合わせて5%ほど人民元は安くなりました。

一般的な表記では、1$=6.2元→6.35元→6.52元といった推移。

切りの良いところで、年内1$=7元くらいだろうと言った予想がしばしば語られますが、もし105円まで円高になっているとすると、切りよく1元=15円。

人民元/円の月足チャートです。

Jinnminngennenn

1元=15~16円水準は、12円が20円になり、その平均に戻ったくらいのストーリーですから、中長期的には特段の違和感はありません。

G20では、為替の安定について話し合いがされ、声明文には「通貨の競争的な切り下げを回避する」との表現が盛り込まれました。

それで結局のところどうなんだ、との思惑が広がりましたが、その後1週間の人民元基準値は、「下げ、上げ、下げ、上げ、上げ」と、神経戦のような展開で、現在は1$=6.5284元。

これは前週末の基準値(6.5338元)に比べ、0.1%ほどの元高・ドル安となっています。

最近のリターン・リバーサル的な相場を反映し、人民元は一旦下げ止まっている様子ですが、予断は許さないところです。

ソロスを筆頭に、海外ヘッジファンド勢は大幅な人民元安を予想し、元ショートポジションを取っているのは間違いのないところだと思いますが、実際に人民元売りの主役となっているのは中国企業だろうと専門家は推測しています。

人民元が強かった頃、中国企業は積極的にドル建て借り入れをしていますが、元安の今は早めに返済したい意欲が強く、様々な手段でドルを調達(元売り)していると見られています。

日経新聞によれば、「中国企業は過去8年間で10兆ドル相当の債務を背負い込んでおり、そのうちざっと10分の1がドル建て」とされているので、ドル建て債務は110兆円以上の巨額となっており、数%元安になるだけで、数兆円単位で返済額が増えていきます。

では、中国当局の姿勢はどうかというと、意外なことに、元安で輸出振興という線で一本化されてはいないように見えます。

無論、輸出産業は元安が良いに決まっていますし、中国が進める「投資主導→消費主導」への衝撃緩和策=時間稼ぎとして元安が望ましいとの意見はあります。

しかし一方で、「偉大な国家の通貨は強い」という考えも根強く、「日本を見よ、1$=360円から100円になる過程で強い産業が育った。我が国の企業も元高に耐えて強大な力を身につけ、日米企業を圧倒せよ!」
と言ったかどうかは知りませんが、こうした愛国的元高主義(?)も、相当の勢力を持っているように感じられます。

彼らにとっては、ズルズル下がる人民元の姿など面子にかけても認められないのです。

とはいえ、ここ数年ドル連動で上昇した人民元は割高となり、市場で人民元が売り優勢なのは事実ですし、為替介入で外貨が減っていることも深刻に受け止めない訳にはいきません。

結局、彼らの「偉大なる人民元」という理想を現実に引き直すと、急落は避けて穏やかに下げる、という選択肢になるものと思われます。

中国人の中には、この機に乗じて為替で儲けてやろうという輩も多いようですが、その対策として、現地の銀行窓口での「一般的な」外貨の調達は、事実上断られているという情報もあります。

そもそも中国経済への懸念が原油安を正当化し、株安に繋がったというメカニズムがあるので、もし中長期的に人民元安は避けられないという立場を取るなら、今のコモディティ相場の逆襲は短期で終わるということにもなります。

2012年以降の人民元相場(対ドルレート:CNY/USD)と原油相場の相関です。

Cnywti201603564

言うまでもなく人民元相場は管理されていてフレキシブルではありませんが、市場の大きな力には勝てない様子が見て取れます。

2013年の人民元は、まだ高止まりしていた原油相場に近づいて上昇する動き。

昨年夏のサプライズ切り下げは、下げ続ける原油価格に抵抗しきれずに急な調整を余儀なくされた、の図ですし、その後も下げる原油に追随せざるを得なかったように見えます。

現在は、中国経済への過剰な悲観と下げすぎた原油価格の見直しによって逆張りが優勢になっている構図ですが、今後はこの反発の持続性が問われそうです。

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