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May 08, 2016

5分で分かる10年間のドル円相場

この10年のドル円チャートです。

Dy10y56402

リーマンショックの前も後も、上限は125円。
下限は75円なので、単純中間値は100円となり、ほぼ購買力平価(PPP)です。

100円を基準に円安・円高を分けてみると、円安4年、円高4年、中間2年と、相場は概ね公平に出来ています。

為替は通貨の交換価値ですから、PPPを上下に大きく乖離すればニュートラルな位置に戻る引力が働くだけ、とも言えそうです。

OECDが公表している毎年のPPPと、実勢レートの比較グラフです。
各年の実勢レートは年末値を採りました。

Pppklj

PPP(青線)は、2008年の116円から2013年に102円まで穏やかに下落しています。

日米のインフレ率を比べると、アメリカのインフレ率の方が年間1~2%ほど高いので、ドルの購買力は相対的に減価します。

従って、徐々にドル安(円高)方向に動いて、物価差を為替市場が調整するのが本来の理屈ですが、実際のレート(赤線)は、2008~2011年においては大きくPPPを下回って推移し、2012年からは一気に反転上昇と、理論値を離れて暴れています。

実勢レートからPPPを引いた値が下の棒グラフで、当然ながらマイナスになるほど輸出にはハンディです。

Gap4568

リーマンショック直後よりも、2010~2011年の方がハンディキャップが厳しく、PPPより30円も円高ですから、さすがに日本輸出産業は悲鳴をあげました。

この過剰な円高の背景は、欧米での金融危機と考えられます。

低成長・低金利の日本で、じゃぶじゃぶに余った円は、海外に出稼ぎに行っているのが常態ですが、リーマンショックと、それに続く欧州債務危機によって、円は海外での働き場所を失いました。

リーマンショックでアメリカから逃げ出し、グリージット、PIGS、ユーロ崩壊などと呼ばれた混乱で欧州でも「失業」。
円は日本に戻って「引き籠もり」を余儀なくされ、限界まで円高になりました。

この円高基調が反転するトリガーは、ユーロの上昇でした。

2012年7月に、ECBドラギ総裁が「ユーロを守るために何でもやる。私を信じろ、これで十分だろ。」( ECB is ready to do whatever it takes to preserve the Euro. And believe me, it will be enough.)と語ったことを機に市場心理が好転。

それから数ヶ月後にはアベノミクスという「掛け声」も発生しますが、それがあろうと無かろうと、欧米市場への過度の悲観の回復によって円の出稼ぎが復活し、ドル円は100円になっただろうと考えられます。

2014年秋の日銀追加緩和策(バズーカ2)は、円安トレンドに乗っていた投資家心理に弾みを付け、2014~2015年は、逆にPPPより10円以上の円安になりました。

この結果、デフレ傾向から脱却しつつあるという評価もありますが、過剰な円安は日本全体をバーゲンセール状態に置き、我々の労働力も安く買い叩かれたという見方もあります。

労働力を安売りすれば失業率は下がり、円安は海外からの観光客の買い物を増やしますが、物価上昇によって実質賃金は伸び悩み、輸出企業ばかりが得をしているという批判も生じました。

また、円安は我々の円貯蓄のドル建て価値を大きく減価しましたので、目の前の繁忙のために過去の蓄えを取り崩しているに過ぎないという面もあります。

この10年間は、円キャリー取引に代表される円安ブームで始まり、米国住宅バブルと欧州のユーロバブルが崩壊して過剰な円高になり、その反動と「バズーカ2」によって今度は行き過ぎた円安圏にまで飛び、今は「定位置に戻る引力」が働いているステージと総括できそうです。

原油安等による経常収支の改善もあって、当面は円高圧力がかかりやすい状況にありますし、割高な米国株の調整や中国の過剰負債の問題点が顕在化するような場合には、100円割れの円高ゾーンまで動くことも想定しておくべきかと思います。
大統領選挙も絡み、当分の間、アメリカが政治的にドル安を歓迎しやすい状況になっていることにも注意が必要です。

なお、中長期的には日本の財政リスクが日本経済最大の課題であり、日銀が国債を購入すればするほど、公的債務への不安が通貨の不信認へと直結しやすくなることは、大きな懸念です。

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