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July 30, 2016

グラウカスの伊藤忠レポートは妥当か

ショート戦略で有名なグラウカスが、伊藤忠に関するレポートを出し、「強い売り推奨」としました。
日本語版pdfが、ここから手に入ります。

グラウカスレポートのポイントは、3点あります。

①コロンビアのドラモンドJVの減損を意図的に隠蔽

これはコロンビアの炭鉱プロジェクトへの出資で、2011年当時、全体で75億ドル評価の20%、1979億円が投資されています。

2011年は、ここが資源価格のピークと見た海外勢が持ち分を売りに転じていたタイミングで、伊藤忠に限らず、多くの商社が痛い投資をした時期です。

石炭価格は、2011年が128$/トンでしたが、現在は57$。
円に直すと、10240円→5985円と、4割安。

この価格下落をもって、すぐに減損すべきと断定することは出来ませんが、グラウカスは、伊藤忠が2015/3期決算において1500億円あまりの減損を逃れるために、この投資を「関連会社投資」から「その他の投資」に意図的に振り替えたと主張しています。

これに対し伊藤忠は、ジョイントベンチャー契約の見直しが14年度に行われ、行使する影響力が少なくなったための区分変更と反論していますが、会計処理のためにわざと影響力を減少させたのでは、という疑問には応えていません。

なお、翌期2016/3期単体決算において、伊藤忠は本コロンビアプロジェクトに関して465 億円の減損を計上しています。(連結ではBS処理)
目立たない方法により、少な目の減損を出すことで監査法人と妥協した、といったところでしょう。

②CITICの連結取込で利益見通しを20%過大報告

タイのCPグループと共同で行った、中国の国有コングロマリットCITICへの投資です。
伊藤忠の投資額は6020億円と、自己資本の4分の1にも相当します。

2017年3月期、伊藤忠は最終利益予想を3500億円としていますが、その20%にあたる700億円相当を、CITICの持ち分利益として見込んでいるとされています。

CITICへの伊藤忠の投資スキームは、下図のとおり。

Citic563

伊藤忠とCPが折半で出資会社を設立し、そこがCITICの20%の株を所有します。

グラウカスは、掛け合わせれば10%に過ぎず、しかも中国共産党による国営会社という特殊事情も考慮すれば、伊藤忠が実質的な影響力を行使しうるのは困難で、持ち分を取り込める連結会社に該当しない、と主張します。
また、会計上の期待投資リターンが11%に対し、現金収益率は1.6%に過ぎないとも指摘します。

これに対して伊藤忠は、2015年度にCPグループと共同で設立した事業会社を通じ、CITICの議決権20%を保有しているため持分法を適用した、と反論しています。

会計上のテクニック論はともかく、現金収益率(要するに配当)が低い点は、既に一般経済誌でも指摘されているところであり、紙の上で取り込んだ利益だけが未収金のように膨らむ事態への疑問が呈されています。

伊藤忠としては、現在2割程度であるCITICの配当性向を上げるように要請すると同時に、事業上の相乗効果を狙って具体的な提携を進めることになるでしょうが、持ち分法会社にすることに拘ったのは、お化粧重視と言われても仕方が無いところです。

③頂新:伊藤忠の2015年3月期損益を救った区分変更と特別利益

頂新グループは、台湾に本部を置く食品・流通の大手であり、即席麺の康師傅が有名です。

伊藤忠は、アサヒグループホールディングスとJV会社を作り、約3:1の比率で頂新株の20%を保有していましたが、2015年3月にJV会社から撤退を図ります。

CITICとの競合を避けるために頂新を連結対象外とする、というのが公式の説明ですが、頂新への出資割合を下げた訳では無く、株はJVから引き取って本体の直接保有としました。

その際、伊藤忠保有分の頂新株をJVから買い取ると同時に、JV会社株をJV自身に売りつけて消却させてアサヒ単独の子会社とする「工夫」をしました。

こうすれば、頂新株の評価次第で、高く買って高く売ることが可能になり、評価益を出しながらアサヒには迷惑をかけない処理が可能だったのだろうと推測します。

実際、この取引で600億円の特別利益が計上されて、伊藤忠は概ね当初見込みどおりの決算が出来ました。

伊藤忠が頂新の株式20%を7億ドルで取得したのは、2008年11月のことですから、これは逆張りタイミングとしては悪くないと思いますが、それにしても当時のレートで700億円で出資したものが最後にまた600億円利益が出るほどの評価となったのはずいぶんと旨い話があったものだという気はします。

但し、頂新グループの主要会社である康師傅の株価は、2008年秋と2015年3月の比較でおよそ2倍。
その後は大きく下がっているので、良いタイミングで再評価益を出し、その後は塩漬けしてしまった、という会計処理は可能だったようにも見えます。

JV会社を利用した持ち分取り込みと、その後の凍結、というのは、どうやら伊藤忠の得意技のようですから、会計基準の良いところ取りをした「汚い工夫」と解される余地はありそうです。

こうした綱渡りのような会計処理は、どこの会社でも大なり小なりやっていることですし、監査法人を説得しなければいけないので、「第三者」による文書での証跡も当然作ってあるはずです。

多少背伸びしても、それに合わせて背が伸びていくなら大きな問題にはなりませんが、上記の点について見ると、どれも金額の規模が大きく、かなりチャレンジングな印象はあります。

期待どおりに「背が伸びる」かどうかは、①は今後の石炭市況、②は中国との交渉やシナジーの伸びしろ、③も頂新の成長という不確実な要因に依存しており、不透明です。

慣例に反して今回の社長交代が見送られたことも、このまま引き継ぐには未解決の「化粧」が多すぎるから、と考えれば納得できそうです。

会計問題以上に重要なことは、経営陣が真正面から現状を直視するかしないか、それによって会社の空気が変わるということです。

工夫の上手な社員が人事上も認められるなら、社員は皆そっちに走り、東芝化します。
逆に、「そこまで無理すんな、俺が決算発表で頭を下げるから膿は早く出せ」という社長なら、社員はお化粧よりもキャッシュを生む取引に集中します。

伊藤忠の現状は、東芝のように現場の隅々まで「工夫しろ」の声が飛んでいるわけではなく、一部の経営スタッフが、少数のプロジェクトにおいて際どい数字作りをしているように見えるので、社風全体への罪は比較的軽微と思われますが、トップが正しいメッセージを発信し続けていかないと、おかしな状況になっていくかもしれません。

そもそも利益というのは誰かの主観であり、客観性のあるのはキャッシュフローです。

ちなみに、大手商社3社の2016/3期決算における営業キャッシュフロー(CF)等です。

Shousha568

三菱商事、三井物産、伊藤忠のCFは、10:8:6、であり、過去の蓄積を反映した自己資本は、10:7:5といったところです。

今の時価総額は、100:77:69ですので、伊藤忠が10~20%ほど下げると、納得しやすい数値になります。

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