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October 11, 2016

住友銀行秘史

イトマン事件を告発する怪文書を書いたのは元楽天副会長でした、とカミングアウトした今話題の「住友銀行秘史」

住友銀行は実力主義で知られていますが、実力や成果というものは、所詮それを判断する人が決めるものですから、上司への猛アピールが前提。
特に行員が数万人もいる巨大銀行では、然るべき人物に「あいつは出来る奴だ」と言って貰うことが極めて重要なので、好き嫌いが却って強く人事に現れやすくなります。

著者の国重氏は、住銀の出生街道の先頭を走るエリート行員でしたから、もちろん「実力」があり、融資先である商社イトマンの放漫経営に憤りを感じ、かつ将来自分がトップを取ったときに住銀がヘナヘナではどうしようもないではないかと怒りに震え、経営陣の一挙手一投足に関して克明なメモを取りつつ、一部長の立場ながら執念深く「改革」の工作を進めていきます。

そもそもイトマンは、中堅ながらも関西の名門商社でしたが、オイルショックで経営が弱体化した折りに、メインバンクの住友銀行が「河村良彦」氏を送り込んで再建させました。

河村氏は住銀の天皇と呼ばれた「磯田一郎」氏の秘蔵っ子であり、高卒でありながら抜群の営業センスで役員となった人物。
バブル前期まで、磯田-河村体制は盤石でしたが、不動産ゴロの「伊藤寿永光」が河村氏に巧妙に取り入ってイトマンに入社。

住銀の融資は伊藤の主導する不動産融資に注ぎ込まれ、イトマンの借入金はみるみる間に1兆円を超えていきます。

伊藤の後ろには、亀井静香の盟友と言われる「許永中」がいましたので、イトマンの資産は更に闇の勢力によって食い散らかされていきます。

磯田氏はイトマンの経営に一定の危機感を持っていたでしょうが、子飼いの河村氏が社長であり、また西武百貨店系列の高級宝飾店「ピサ」に勤めていた長女が、絵画をイトマンに(実質は伊藤に)購入して貰う等の便宜を受けていたために冷徹な決断が出来ず、ずるずるとイトマンの経営は悪化していきます。

国重氏は、許永中率いる闇の勢力に対抗するため、旧川崎財閥の資産管理会社「川崎定徳」の代表であり、竹下元総理とも親しい大物フィクサー「佐藤茂」氏を味方に付けます。

佐藤氏は、住銀が吸収合併した平和相互銀行の株式を一時預かってくれるなど信頼関係が存在し、また元々は佐藤氏系の総会屋が仕切っていたイトマンの株主総会が、伊藤寿永光によって別の総会屋に変えられたことに腹も立てていたようで、磯田降ろしに協力を得やすい関係でした。

国重氏は、日経や読売の記者に極秘に内部情報を流した他、イトマン従業員を騙(かた)って大蔵省に「LETTER」を出して執拗にイトマンへの検査を迫るなど、磯田-河村退陣のためにスパイさながらの暗躍をしましたが、磯田氏にとどめを刺した男という称号は、当時常務だった「西川善文」氏が持っていきました。

泣く泣く恩人を切る役を演じた西川氏は、更に階段を登って行きますが、知りすぎた国重氏は大阪に異動。

以降、都内で複数の支店長を務めるも、本社中枢部門に戻ることはなく、出世の限界を知った国重氏は新天地を求めて「DLJディレクトSFG証券」へ転出。

その後、楽天が同証券を買収したため、国重氏は楽天グループ入りして金融業務の総責任者となり、副会長にまで登り詰めましたが、2014年にダブル不倫・暴行疑惑が発生し、頭を丸刈りにしたうえで突如の辞任。

現在は、マザーズ上場のリミックスポイントの社長をしています。

恐らくはまだ語られていない闇(例えば住銀名古屋支店長射殺事件)もあり、何とも微妙な読後感ですが、この圧倒的なリアリティは、日本金融史に関する必読書をまた1冊増やしました。

なお、「ザ・ラストバンカー 西川善文回顧録」と合わせて読むと、より理解が深まります。

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