2016年は揺り戻しの1年だった
新年にあたり、皆様方のご健勝をお祈り申し上げます。
昨年を振り返ってみると、6月のBREXITと11月の米大統領選が印象的です。
特に、当初は泡沫候補の扱いでしかなかったトランプ氏が勝利したことは驚きました。
接戦の結果、最後はヒラリーが逃げ切るものと思っていましたが、8年続いた民主党政権への拒否感は想像以上に強かったのです。
黒人大統領の次に実現されるべきは女性大統領だろうという、マイノリティ優先的な歴史観も一旦ストップ。
『LGBTの権利は認めるし、Black Lives Matterも当然だ。
しかし、だからって俺たちの方が列の最後に並ぶってのはおかしいだろう』
トランプは、こうした白人層の不満を上手く票に結びつけました。
米大統領選は接戦州を取り合うゲームですが、この戦い方もトランプ氏の方が優れていたようです。
オバマは良い人ですが、戦い方が上手いとは言えません。
核兵器削減は口先だけに終わり、中国に対しては軟弱な姿勢を取り続け、最後になって「話せば分かる相手ではない」と気づいて態度を硬化させましたが、今さら言うなよと習近平に無視され、南シナ海は着々と中国の領土化しています。
ウクライナでもシリアでも、いわゆる民主派の活動を支援しましたが、プーチンとの対決を招き、クリミア半島とウクライナの東半分を失いました。
プーチンから見ると、事実上「東西での住み分け」が実現していたウクライナをNATO陣営に入れようとするオバマの行動は危険な火遊びであり、最初に現状変更しようとしたアメリカに非がある、という理屈になります。
トランプがプーチンに好意的ということは、この言い分を概ね認めるということに他ならず、米外交の基本姿勢が大転換するかもしれません。
ブッシュの間違ったイラク戦争との反省から、「no boots on the ground 」という中途半端な軍事活動しか出来なかったオバマ政権は力の空白を生み、ロシアと中国がそこを埋めました。
「人権だ、反戦だ、反ロシアだ」は良いが、アメリカの実利はどこに行ったのか。
という大衆心理は、ワシントンの政治家を拒否し、「損得勘定」重視の大統領を選びました。
トランプという人物に特定のイデオロギーは無いと思います。
小さな政府主義でもなく、人権と民主主義の宣教師でもなく、娘がユダヤ教に改宗するのもドンマイ。
むしろ、金融・不動産業界を牛耳るユダヤ人世界に足がかりを築いたことを積極的に評価しており、親イスラエル姿勢を鮮明にしています。
「お前の言いたいことは分かったが、それは俺とアメリカにとって得になるのか」と問い続けられる4年間が始まりそうです。
欧州では、EUの拡大と移民歓迎という思想が、巻き戻しの対象となっています。
欧州は二回の大戦で国土も人心も荒廃。
これを繰り返さないため、宿敵のフランス・ドイツが同じ屋根の下で暮らすことを決めました。
しかしながら、このEU一家は当初の目論みを越えて拡大し、本来条件を満たさなかったギリシャが嘘をついて同居。
いまだに追い出せず、繰り返される「金の無心」への対処に苦慮しています。
また、トルコの入居要請を受けて、はたと立ち止まります。
イスラム教だから駄目だと言うのは差別になるから、他の理由で断るしか無い。
「排除の空気」を感じたトルコでは、だったら俺たち世俗主義を止めて目一杯イスラムしようぜ、という勢力が拡大し、いまや独裁の一歩手前。
トルコ人は親エルドアンと反対派に別れてクーデタまで発生し、ISとクルド人が隙あらばと狙う内戦状態です。
不幸なことに、イスタンブールの新年はナイトクラブでの銃撃事件で明けました。
「みんな手をつなごう、ドアに鍵はかけずに自由に往来しよう。イマジン歌えば平和が来るさ」
そんなEU官僚たちにだけ都合の良い世界はゴメンだ。
イギリスが過去からの流れに背を向けることが出来たのは、ユーロに参加していなかったことも大きな背景ですが、これはサッチャーがポンドを捨てることに頑強に反対したからです。
ドイツはホロコーストの反省から移民に寛容でしたが、それも限界に来ました。
シェンゲン協定のおかげで、爆弾を積んだ車が容易に国境を通過し、犯罪者は自由に逃亡。
フランスに留学していた日本人女性殺害容疑のチリ人は、数日後に母国にまで戻っていました。
多少の便利さと引き替えに安全を大きく損なったと考える人々は、極右と呼ばれる政治家に親近感を感じています。
元々欧州は多数の国々に分かれており、そこを越えるときには国籍のチェックがあり、通貨の交換に手数料を取られました。
90年代途中から普及したインターネットによって情報は簡単に国境を越えるようになり、それに迎合するかのように、資本と人間が国境を越える手続きも簡素化されてきましたが、人命がたやすく失われる結果を招いた以上、このトレンドにブレーキをかけるべきだと考える人が多数となるのも不思議ではありません。
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