投資観点でのトルコ
2023年2月6日、トルコ南東部のシリア国境付近で大きな地震が発生。その影響で、トルコの株式市場は2月8日から15日までクローズという異例の事態となっています。
トルコは、前回取り上げたギリシャと極めて仲が悪く、キプロス島が事実上この二か国に分割統治されているのが、その象徴です。
また、両国の間にあるエーゲ海は世界的な観光地ですが、ギリシャとトルコを直接結ぶ航路は見当たりません。
トルコの歴史と言えばオスマン帝国。オスマン1世が王位についた1299年から第一次世界大戦が終了するまでの600年以上も続いた大帝国で、最盛期の領土は下図のように広大ですが、帝国内部では民族や宗教による混乱が少なく、専門家からも、その統治システムには高い評価がされています。
領土拡大の原動力は、もちろん兵力。全国のキリスト教徒から優秀な若者を強制徴用してイスラム教に改宗させ、適性に応じた訓練・教育を受けさせる「デヴシルメ」という制度によって、強力な軍隊と優秀な官僚を養成。
身分はスルタンに所有される奴隷ですが、実力主義になっており、中には大臣にまで出世する者もいたため、次第に各地の親たちが自分の子を積極的に徴用されようとしたと言われています。
実力制度はハーレムにも適用されました。帝国最盛期のスルタンであったスレイマン1世は、ロシア系奴隷でキリスト教徒だったアレクサンドラ・リソフスカに、朗らかな人という意味のヒュッレムという名を与えて寵愛し、イスラム教に改宗した彼女を正妻としました。
アレクサンドラは14歳の時、故郷の村がクリミア・タタール人の襲撃にあって奴隷貿易で売られ、イスタンブールでスレイマン1世の近臣イブラヒム・パシャに買われてハーレムに入って教育を受けたと言われています。
イブラヒム自身が、ヴェネチア領ギリシャ生まれの元キリスト教徒で、奴隷身分から大出世しました。
この類まれな多様性を持つ大帝国も、民族主義の台頭と共に弱体化し、第一次世界大戦で敗戦。大きく国土を減らして、どうにか残ったのが現在のトルコ領という格好となっています。
当時の将軍ムスタファ・ケマル・アタチュルクは近代化の必要を感じ、憲法からイスラム教を排除、女性の参政権を導入し、トルコ語表記をアラビア文字からアルファベットにするなど、政教分離の世俗主義によって西欧化を基軸とした再発展を期することになりました。
1952年、戦後の早い時期にNATOにも加盟したものの、西欧化のゴールとも言えるEU加盟は実現できず、それならばと現大統領のエルドアンはイスラム化に逆戻りし、元々ビザンツ帝国のキリスト教大聖堂だったアヤソフィアは、博物館という中立の扱いから、2020年にモスクに戻りました。
トルコの人口は8500万、一人当たりGDPは9700ドルと、この10年以上「中所得国の罠」で停滞中ですが、比較的廉価な労働力を狙って、ルノー、フィアット、フォード、トヨタ、ヒュンダイなど多くの自動車メーカーが進出し、最も多い輸出品は自動車関連製品となっています。
トルコリラは、FXトレーダーに高金利通貨として有名でしたが、最近は中央銀行の独立性を無視したエルドアン大統領の、低金利による通貨強化大作戦(?)によって、継続的に通貨の弱体化が進んでいます。
直近1月のインフレ率は前年比58%ですが、2019年に24%だった政策金利は現在9%に下がり、常識外れの大きな乖離となっています。インフレ率90%のアルゼンチンの政策金利が70%なのと比べると、トルコの異常さが際立ちます。
トルコリラはこの1年で対ドルで3割下落し、5年間では8割下落して5分の1になっています。
しかしながらエルドアン理論は株価には有効だったのか、ドル建ての「TUR(iShares MSCI Turkey ETF )」は昨年1年間で2倍。中でもトルコ航空株は現地通貨建てで1年で7倍となり、ドル換算でも約5倍と、恐らくは2022年、世界で一番上昇した銘柄だろうと言われています。
但し、TURは2023年になると一転して2割安となっており、荒っぽい値動きでもあります。
2022年のトルコのGDP成長率は実質で+5%程度と一見好調ですが、高いインフレ率には当然ながら国内で批判もあります。
資源も乏しく、強いとは言えない経済ですが、欧州とアジアの接点である立地の魅力は大きく、ウクライナ戦争以降は、ロシア富裕層がトルコの不動産を買い漁っているとも言われています。
そもそもオスマン帝国の最大の敵は、南下を狙うロシアでしたが、最近のトルコはロシア製の地対空ミサイルシステムS-400を配備するなど、とてもNATOの一員とは思えないような行動も取っており、外交姿勢が大きく変化していることは、この国を評価するに当たって重要な点と思われます。
トルコの高いインフレ率とエルドアンの低金利主義を味方につけた投資対象となると、まず浮かぶのは不動産・金融セクターですが、2022年にバブルのような相場を経験してしまったトルコ株なので、今年は相当に難しい状態になってしまったと言えそうです。
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